平川克美「路地裏人生論」書評 確かに存在した人々や時代の刻印
評者: 朝日新聞読書面
/ 朝⽇新聞掲載:2015年08月02日
路地裏人生論
著者:平川 克美
出版社:朝日新聞出版
ジャンル:エッセイ・自伝・ノンフィクション
ISBN: 9784022512871
発売⽇: 2015/06/19
サイズ: 19cm/205p
路地裏人生論 [著]平川克美 [写真]高原秀
ささやかな町工場を経営していた父の、指のしわまで油がしみこんだ武骨な手の記憶。工業地帯を流れていたどぶ川へと、どこからか泳ぎついた雷魚に驚いた少年期の記憶。かつて遊郭街だった洲崎で出会った亀の、微動だにしない姿が呼び起こす、その土地の記憶……。
初老の著者は、母を見送り、介護を経て父を見送ったのちに、自らの死が視野に入ってはじめて「末枯(すが)れた路地裏や、暗雲が垂れ込める殺風景な河川の光景」に目が留まるようになったという。濃厚な輪郭を持ち始めた風景をむさぼり見るように街をさまよい、想起する記憶の断片を言葉にすることで、確かに存在した人々や時代の刻印を試みた。
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朝日新聞出版・1512円