カズオ・イシグロ著『日の名残り ノーベル賞記念版』(土屋政雄訳、早川書房・2916円)が刊行された。黒地に金を使った表紙は格調を感じさせる。第2次世界大戦の前後に英国貴族に仕えた執事の物語という内容を反映しているようだ。
注目は村上春樹さんによる解説。イシグロさんと会って話した時、「『英国人作家』である彼の中の日本人性(みたいなファクター)」を感じた、と記す。本作の英国人執事には「日本古来の武士」との共通項さえ感じた、とも。また、作家を、作品をひとつひとつ系統的に積み重ね「垂直的」に進歩するタイプと、異なったテーマや枠組みを取り上げ「水平的」に試しながら進歩するタイプに分け、自分は前者でイシグロさんは後者だと分析するなど、作家論も展開していて興味深い。
互いにファンという2人は、レイモンド・チャンドラー好きでも共通。日本語訳を出した村上さんに、英語なので訳せないとイシグロさんは悔しがったらしい。これは、村上さんから聞いた話。(吉村千彰)=朝日新聞2018年5月26日掲載
編集部一押し!
- インタビュー 「尾上右近 華麗なる花道」インタビュー カレーと歌舞伎、懐が深いところが似ている 中村さやか
-
- インタビュー 鈴木純さんの写真絵本「シロツメクサはともだち」 あなたにはどう見える?身近な植物、五感を使って目を向けてみて 加治佐志津
-
- コラム 三浦しをんさんエッセー集「しんがりで寝ています」 可笑しくも愛しい「日常」伝える 好書好日編集部
- 小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。 【特別版】芥川賞・九段理江さん「芥川賞を獲るコツ、わかりました」 小説家になりたい人が、芥川賞作家になった人に聞いてみた。 清繭子
- 朝宮運河のホラーワールド渉猟 黒木あるじさん「春のたましい」インタビュー 祀られなくなった神は“ぐれる”かもしれない 朝宮運河
- インタビュー 「親ガチャの哲学」戸谷洋志さんインタビュー 生まれる環境は選べない。では、どう乗り越える? 篠原諄也
- インタビュー 新井紀子さん×山本康一さん対談(後編) 辞書は民主主義のよりどころ PR by 三省堂
- インタビュー 新井紀子さん×山本康一さん対談(前編) 「AI時代」の辞書の役割とは PR by 三省堂
- インタビュー 村山由佳さん「二人キリ」インタビュー 性愛の極北に至ったはみ出し者の純粋さに向き合う PR by 集英社
- 朝日ブックアカデミー 専門外の本を読もう 鈴木哲也・京大学術出版会編集長が語る「学術書の読み方」 PR by 京都大学学術出版会
- 朝日ブックアカデミー 獣医師の仕事に胸が熱く 藤岡陽子さんが語る執筆の舞台裏 「リラの花咲くけものみち」刊行記念トークイベント PR by 光文社
- 朝日ブックアカデミー 内なる読者を大切に 月村了衛さんが語る「作家とはなにか」 「半暮刻」刊行記念トークイベント PR by 双葉社