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図書館でブックフェア 利用しなかった人に来てもらうきっかけに 奈良

文・写真:太田明日香

 エントランスホールに並んだブースには、それぞれの出店者おすすめの本が並びます。一押しの本を厳選して並べるお店、『万葉集』や『古事記』など奈良にゆかりのある本をセレクトして売るお店、中にはこの日に古本屋デビューというお店まで。選書一つに個性がキラリと光ります。

 本だけではありません。パンやコーヒーや雑貨の販売。なかには、「おてらおやつクラブ」「オムライスラヂオ」といったユニークな企画も。「おてらおやつクラブ」は、お寺にお供えするお菓子を、一人親家庭へおすそわけする活動。今回は、来館者に古本寄贈を募り、その売り上げを活動資金として寄付する「古本勧進」として参加しています。

天理市や大和郡山市からの出店。見る見るうちに売れていきました
天理市や大和郡山市からの出店。見る見るうちに売れていきました

 「オムライスラヂオ」の方は、奈良の東吉野村でルチャ・リブロという私設図書館を運営する青木さん夫婦が配信しているインターネットラジオ。今回は出店している出版社やお店にインタビューする特設スタジオが登場しました。

 おしゃべりや飲食が禁止されている堅苦しい場所、というイメージの強い図書館ですが、この日だけは特別。エントランスにはオムライスラヂオのおしゃべりが流れる中、あちこちで会話や交流が生まれます。お客さんは、じっと書棚を眺める本が好きそうな男性や、絵本を探す子ども連れの家族、サブカル好きそうなカップルなどさまざま。いろんな人が交流する様子はまるで縁日や朝市のようです。

会場は2日間にわたって大盛況でした
会場は2日間にわたって大盛況でした

 どうしてこんなイベントが実現したのか、図書館の企画担当の宮川享子さんにお話を伺いました。

 「図書館でこのようなイベントをするようになったのは、以前に開いた手作り雑貨を売るイベントがきっかけです。ふだん利用されるのは60歳以上の男性が多いのですが、そのときはあまり図書館では見かけない女性や子ども連れの方がたくさん来てくださったんです。これまで利用しなかった方が図書館を利用するきっかけになるし、このようなイベントを求めている人もいるのだとわかり、そこからいろいろなイベントをするようになりました」

 イベント企画者は宮川さんの知り合いを中心に募ったそうです。大和郡山市の書店「とほん」の砂川昌広さんもその一人。「さくらマルシェ」の出店者は、どれも砂川さんの取引のある出版社や知人。

 「僕は本屋で、ずっと本に関することをしたかったんです。出版社の多い東京ではこういった出版社が直接読者に販売するブックフェアが多いのですが、奈良ではなかったのもあって、やってみようと思いました」

各店、おすすめの本を並べる。岡潔、寮美千子氏など奈良にちなんだ作家の本も
各店、おすすめの本を並べる。岡潔、寮美千子氏など奈良にちなんだ作家の本も

 ここ十数年、出版不況と言われて以来、出版不況の一因が図書館にあるという意見もよく聞きます。「人気の本を図書館に大量に仕入れるからだ」という意見や、とある大手出版社が「図書館に文庫本を置かないように」と言ったというニュースを耳にしたことも。

 しかし、「この本ずっと読んでみたかったんですよ〜」「興味ある本があったら手に取って見てみてくださいね」「この本はこういう経緯があってできたんですよ」と、訪れた人たちが本を心から楽しんでいる様子を見ていると、そういった対立構造が無意味に思えてきます。

 「本が好き」な人にとっては、実は図書館も書店もあまり関係ないのかもしれません。ブックフェア目当てに図書館に来館した人が利用者になったり、たまたま図書館を利用しに来た人がそこで本を買ったり、循環が生まれることもあります。図書館でブックフェアという取り組みは、本屋と図書館が対立するものではなく、相互にメリットをもたらす可能性を示しているように感じました。