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NHK「きょうの料理」テキスト創刊60周年記念イベント 鈴木登紀子×後藤繁榮トークショー 名コンビが贈る! わたしと「きょうの料理」

テキストの創刊は1958年4月 メディアミックスの先駆けに

後藤:NHK「きょうの料理」に40年以上ご出演の鈴木登紀子さんは、現在93歳。「入れ歯なし、補聴器なし、物忘れなし」というお元気さです。

鈴木:さすがに物忘れはありますよ。しかも年だから何を言い出すかわからない(笑)。危ないところを後藤アナはじょうずにフォローしてくださるの。

後藤:今日は番組で慣れ親しんだ「ばぁば」という呼び名でお話させていただきますね。さて、「きょうの料理」の放送開始は1957年11月。半年後の1958年4月にテキストが創刊されました。放送と誌面が連動する、メディアミックスの先駆けでしたね。ばぁばの初登場は昭和52年(1977年)でした。

鈴木:2カ月に渡りご飯特集を組みました。中でも皆さんに驚かれたのは「青豆ご飯」。グリーンピースを別に炊くので、翌日も豆が青々としているの。もちろん一緒に炊いてもおいしいのですけれど、これだと目で見てもおいしい。

後藤:私が初めてばぁばとご一緒したのは1979年。料理がまったくダメでボーッとしていたら、「少しは手伝ってくださらない?」とおっしゃる。そこで、胡椒をふるくらいならと瓶を手にしたら、なぜか出ないんですよ。

鈴木:「あらっ、蓋をしたままでは出ませんよ」と。

後藤:思わず口を突いて出たのが、「胡椒が故障していると思いました!」という、番組史上初のダジャレ。しまったと思って見回すと、ディレクターもカメラマンも肩を震わせて笑っていた(笑)。

鈴木:スタジオが和みましたよ。お茶の間の皆さんもきっと和まれたことよ。

後藤:番組は開始以来、撮り直しなし、編集なしの方針で、通しで24分30秒撮影したものを電波に乗せているんです。だからダジャレもそのままお茶の間に。

鈴木:収録の日は、ドライ(=ドライ・リハーサルの略。カメラを回さずに行う)、カメラが入るカメリハ、それから本番を撮るのね。だけど若殿、この方は自分のことを「若殿と呼んでくれ」とおっしゃるの(笑)。若殿とのおしゃべりが楽しくて…。

後藤:私は当初、ばぁばを「姫」とお呼びしていました。

鈴木:おしゃべりのせいでカメリハはいつも時間オーバー。皆さんをハラハラさせてしまう。それで本番は二人して神妙な顔で始めるのだけれど、あら不思議、ピタッと24分30秒で終わるのは若殿のおかげよ。

後藤:ダジャレと時間厳守にアナウンサー人生を賭けてきましたから(笑)。

鈴木登紀子さん
鈴木登紀子さん

主婦の平凡な集まりが料理教室に テレビ初登場は56歳の時

後藤:本番に強い私たちですが、ばぁばは一度だけ、撮影をストップさせましたね。

鈴木:そんなことあったかしら?

後藤:卵料理の回でした。開口一番、「今日のこちらのおいしそうな卵は、後藤さんのご実家の卵なのよ!」って。

鈴木:アハハハ(笑)。

後藤:私の父はニワトリの品種改良をしておりまして、そのニワトリが生んだ卵を知らないうちに用意されていた。プロデューサーが慌てて撮り直しを命じましたね。「宣伝になるので困ります、NHKなので」と(笑)。それにしても、ばぁばはどういう経緯で「きょうの料理」に?

鈴木:会社員だった「じぃじ」と結婚して東京に住んで、子どもが小さい頃、建売住宅を買いまして。

後藤:じぃじとは、9年前に亡くなった清佐(きよすけ)さんですね。

鈴木:着るものに頓着しない人でした。ただ、チロルハットだけは好きで2つ持っていて、二人でスイス旅行をしたり…。それはともかく、うちには子どもが3人いて、子どもたちを通して近所のママたちと仲良くなったの。そのうち私の家でお食事を楽しむようになって。

後藤:おいしいと評判に。

鈴木:はじまりは主婦の平凡な集まりでしたよ。育ち盛りの子どもにいいものを食べさせようという。そのうち「教えて」という感じに。

後藤:お料理教室になった。

鈴木:もうひとつ、一軒置いた隣に足の不自由なお婆さまがいらして、子どもたちが垣根をまたいで庭で遊びまわるものだから申し訳なくて、ある年の大晦日に少しのおせちとバラを一輪、お届けしたんです。とても喜ばれましてね。その方は金沢のご出身だったから、あちらの郷土料理、治部煮なんかを教えていただいたわね。

後藤:評判が評判を呼んで46歳の時に料理研究家としてデビュー。テレビ出演が53歳ですから、皆さん、いいことを始めるには遅くはありませんよ!(笑) 

鈴木:まわりの方がよくしてくださったおかげよ。今思うと、出版とかテレビ業界の方が、新しい人を探していたんじゃないかしら。いっせいに来ましたもの。

後藤繁榮さん
後藤繁榮さん

NHKきょうの料理シリーズでも 手軽にできる和食とその心を紹介

後藤:そういうばぁばのお料理は、母・お千代さんの味がベースになっているんですよね。

鈴木:母の手元をいつも見ていました。篆刻家だった父は晩酌を欠かさず、お客さまも多くて、母は肴を切らさないよう毎晩、寒い台所で2時間は料理していました。大きなかまどが2つあって、お湯沸かし用と煮炊き用。給湯器もガスコンロもない時代ですよ、昔の人は偉かった。そんな母の一部始終を見ていたので、おのずと手配り目配りを覚えてしまった。だから女学校の成績で「家事」は「甲」でしたよ。体操・音楽・国語も甲だったわね。ほかは全部「丙」でございました。

後藤:丙とは、へえ~(笑)。「家事」という科目があったんですか。

鈴木:はい。でも、私はお転婆でしたから、今の姿を見たら母はびっくりするでしょう。「おめぇさんの分に過ぎます」って。バスケットボールはロングシュートを決めるくらい得意。スケートでは国体に出るはずが、婚約したので心証を悪くしないために出場を辞退しました…。今なら出るわ(笑)。

後藤:お料理教室はずっと続けられていて、今も毎月、全国から生徒さんがいらっしゃる。

鈴木:北は北海道から南は宮崎県ですか。教室といっても、私が作るのを見ていただくの。皆さんで作ると、積極的な方と遠慮がちな方と分かれて不公平でしょ。だからひたすら見て召し上がっていただいています。お出しするのは昔ながらのごちそうですね。日本のごちそうには決まりごとがたくさんあって、最初に出すのがあえ物、次がお椀、それから煮もの、焼きものと続いて、最後がご飯にお味噌椀なんですよ。

後藤:テキストの『NHKきょうの料理シリーズ』では、簡単に作れるものもご紹介されていますね。今日は何か一品、教えていただけますか?

鈴木:うちの賄いでは缶詰も使います。茹でたスパゲティにツナ缶を開けて、青じそを一枚、その上に大根おろしと千切りにした青じそを載せて、お醤油を垂らせば出来上がり。サケ缶でもいいですね。

後藤:雷汁もありましたね。
※NHKきょうの料理シリーズ『登紀子ばぁばの70年つくり続けてきた私の味』(NHK出版)では「雷豆腐のみそ椀」として紹介。

鈴木:これは皆さんなさるといいわよ。木綿豆腐に重しをして水切りしたら、大きくちぎってごま油で炒める。この時、ジャーッとすごい音がして雷さまを連想するの。それをお椀に入れておつゆを張って、ねぎを散らしりたりしてね。「大豆は畑のお肉」と言うでしょ、栄養もあっていいですよ。

鈴木登紀子さんと後藤繁榮さん
鈴木登紀子さんと後藤繁榮さん

食べることは生きること 新シリーズでは四季の味を伝授

後藤:こんなにお元気なばぁばですが、がんで入院されたことも。

鈴木:年に1度は入院して経過を見ておりますよ。2年くらい前には、肝臓がんの検査入院中に心筋梗塞を起こし、集中治療室にしばらくいました。そこに恐ろしい看護師さんがいたんですよ。酸素マスクのかぶせが強引で、マスクを取ると鼻が曲がっているくらい! それでも最新のマスクだとかでぎゅうぎゅうやるから、「悪魔なの~?」と思いました(笑)。あと、病室に戻ったら毎日採血でしょ。「吸血鬼なの~?」と思いました(笑)。トークショーはいいわね、言いたいことが言えて(笑)。でも、そうやって面白いことはないかと探していると、入院生活も楽しいものですよ。

後藤:お元気でなによりです。テキストでは創刊60年目に入った2018年4月号から、新シリーズ「ばぁば じぃじの四季」が始まりました。

鈴木:ばぁばの春編は「春はあえ物」ですね。旬のうどや菜の花をしょうが酢であえるの。あえ物は日本のサラダ、たくさん召し上がっていいのよ。

後藤:続く5月号では、番組が共同開発した「脚付き平ざる大小セット(トレー付き)」を紹介されている。これぞ、見ざる聞かざる平ざるだ(笑)。

鈴木:実際に使っていますけれど重宝ですよ。水切りは大事、材料に余分な水分・塩分が残っているとうまくいきません。このセットは水切りにもあえ物にも使えて便利。

後藤:次の「ばぁばの四季」夏編は、NHKテキスト7月号に掲載される予定です。

鈴木:「牛のたたき」ですね。これはどなたでも絶対に失敗しない作り方。それから「南蛮味噌」。夏のお野菜に付けますが、こんにゃくを茹でて色紙に切ったのに載せてもおいしいですよ。あとは、「枝豆のすり流し」ですか。

後藤:牛肉、お好きですよね。

鈴木:大好き。週に2~3回はいただきます。それだけでなく、何でも好きで食べ過ぎるからこういう体形なの(笑)。たくさん食べると満足して動ける、少しだと身が入りません。

後藤:まさにばぁばの名言、「食べることは生きること」ですね。これからも手軽にできる和食とその心を伝えてください。

鈴木:最初は誰でも下手ですよ。だから何回も作って、そのつどお味を見る。舌と目を働かさなければ。そうやってご自分のお味にしていくの。それから、気分がむしゃくしゃしている時はお料理しないほうがいいですね。とんがったお味になりますから。そういう時は缶詰でいいの。やさしい心でやさしいお味、ですよ。

(構成・安里麻理子)