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青山七恵「繭」書評 相互依存の糸、終わりが始まり

評者: 蜂飼耳 / 朝⽇新聞掲載:2015年11月08日
著者:青山 七恵 出版社:新潮社 ジャンル:小説・文学

ISBN: 9784103181026
発売⽇: 2015/08/31
サイズ: 20cm/374p

繭 [著]青山七恵

 美容師として自分の店を持って働く舞は、仕事の続かない夫・ミスミに度々暴力を振るってしまう。関係の歪(ゆが)みを認識しながらも、変えることができない。この夫婦と同じ集合住宅に住む希子は、美容院の客でもあるが、次第に接触の機会が増えて、関係は複雑さを増していく。
 舞の態度に抵抗しないミスミは一見、弱々しい男性のように描かれる。じつは、暴力を許容することで相手を支配する人物なのだ。相互依存が作り出す関係の繭。謎の多い恋人・道郎を逃亡中の犯罪者だと思いこみ始める希子もまた、相手に支配される状態から抜け出せない。
 ともに三十代前半の舞と希子は、互いの問題や悩みを知り、いつしか手を差し伸べ合う関係になる。これまでの関係や生活を棄(す)て、変わろうとする女性たち。前向きだ。縺(もつ)れる距離感をあぶり出し、終わりが始まりであることを告げる長編小説。関係の糸が作り出す繭の外に、これからの時間があると示唆する。
    ◇
 新潮社・1944円