角田光代「坂の途中の家」書評 孤独のふちへ追いやられる主婦
評者: 朝日新聞読書面
/ 朝⽇新聞掲載:2016年02月28日
坂の途中の家
著者:角田 光代
出版社:朝日新聞出版
ジャンル:小説・文学
ISBN: 9784022513458
発売⽇: 2016/01/07
サイズ: 20cm/420p
坂の途中の家 [著]角田光代
目の前の被告は、私そのもの——。
幸福いっぱいの主婦が、補充裁判員として関わることになった、見ず知らずの主婦の裁判。物分かりのいい夫がいるにもかかわらず、幼子をあやめた被告に、知らず知らずのうちに自らを重ねてしまう。他の裁判員からはまるで理解されないが、事件に至る被告の心の動きが、この主婦には手に取るように理解できてしまう。そのことに気づいた瞬間、恐ろしさに身震いする。
夫との、姑(しゅうとめ)との、普段なら何とも思わないような「よくある会話」が、主婦を孤独のふちへと追いやっていく。人情の機微を丹念に繊細に描く筆致に圧倒される。無垢(むく)な赤ん坊に向けられる残酷な衝動が静かにふくらみ始める。
◇
朝日新聞出版・1728円