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「戦国争乱と巨大津波」書評 天災を切り口に歴史を見直す

評者: 朝日新聞読書面 / 朝⽇新聞掲載:2016年03月13日
戦国争乱と巨大津波 北条早雲と明応津波 著者:金子 浩之 出版社:雄山閣 ジャンル:社会・時事・政治・行政

ISBN: 9784639024002
発売⽇:
サイズ: 19cm/206p

戦国争乱と巨大津波 北条早雲と明応津波 [著]金子浩之

 北条早雲は津波に乗じて伊豆を制圧したのではないか。わずか30日で平定した従来説に疑問を投げかけ、発掘で調べた戦いや大津波の痕跡を史料と照らして検証した。
 筆者は、静岡県伊東市で市史を担当する職員。津波でできた地層を研究する地質学者とも協力して、15世紀に大津波が短期間に2回襲来した可能性を示している。
 疲弊した被災地は外敵に抵抗する力も弱く、復興支援も必要。歴戦の武将が、この機を逃すはずがない。すると、千頭の牛の角にたいまつを着けて大軍を装った伝承も、大津波のことではないのか。
 貞観津波の再来と言われた東日本大震災後、過去に学ぼうと、歴史学や地質学と融合した地震研究が注目される。
 筆者は、天災と人の歴史を別に論じてきた歴史学に疑問を投げかける。本書が示す多様なデータと既存説の見直しは、歴史の転換の起因としての災害への関心を高める。その視点で他の歴史災害の影響や3・11後を考えたくなる。(評:黒沢大陸・本紙編集委員)
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 雄山閣・2376円