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那珂太郎「宙・有 その音」書評 音の磁力に導かれた詩の言葉

評者: 水無田気流 / 朝⽇新聞掲載:2014年10月26日
宙・有 その音 著者:那珂 太郎 出版社:花神社 ジャンル:小説・文学

ISBN: 9784760220298
発売⽇:
サイズ: 21cm/315p

宙・有 その音 [著]那珂太郎

 今年6月に亡くなった詩人・那珂太郎の遺作。最後の本になるだろうとつけられた題名の「宙」とは自分の周りの無限を思わせる空間、「有」とはその空間に存在するであろう、多数の多様な物たち。それらを通じ無に帰す宿命の生を描いた、という。
 本書を通読し、あらためて生涯を通じ、その詩論も作品も、音韻やリズムへの傾倒により貫かれた詩人と確信した。詩の言葉や詩作することそのものを先導する「音」の磁力。それは、萩原朔太郎をはじめ多くの先達を読解する際、独自の視点をもたらした。現代詩のほか、評論、追悼文、そして真摯(しんし)な対談の数々には、短詩型の評価と現代詩との差異、さらに双方の可能性についてのエッセンスも盛り込まれている。さらに近年編んだ俳句作品も所収。贅沢(ぜいたく)な本だ。「さゆりてふ名のゆかしさよゆらゆるる」。しみじみ、那珂調の音韻俳句。「春うららいのちあるものみなかなし」。本当に。心より、ご冥福をお祈りする。
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 花神社・3240円