「チューリングの妄想」書評 魔術性盛り上げる祝祭的構成
評者: 佐倉統
/ 朝⽇新聞掲載:2014年10月19日
チューリングの妄想
著者:エドゥムンド・パス・ソルダン
出版社:現代企画室
ジャンル:小説・文学
ISBN: 9784773814170
発売⽇: 2014/08/05
サイズ: 19cm/538p
チューリングの妄想 [著]エドゥムンド・パス・ソルダン
著者はボリビア出身の中堅作家。ラテンアメリカの文学といえば、魔術的リアリズムや祝祭的多声性が連想されるが、この作品はそれらの系譜を引きつつも、独自の世界を新しい感覚で展開する。
語り手というか主人公というか、は七人。ボリビア政府暗号解読機関の窓際族、コードネーム「チューリング」を中心に、その家族、上司、反対派など、絶妙の距離感をもった顔ぶれだ。それぞれの視点からの物語が順番に入れ替わりつつ進行し、交錯する。まさに祝祭的な構成であり、暗号解読とインターネット・テロリズムという題材自体が、魔術性を盛り上げる。
さぞや幻想的で夢の世界のように複雑かと思いきや、これが正反対。全体があたかもひとつの視点から語られる物語のように、一気(いっき)呵成(かせい)に読み通せる。多声性を満喫しつつ一本筋を通す構成力には、感嘆する。
翻訳のすばらしさも、この成功に一役買っている。平明で、とても美しい日本語だ。
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服部綾乃・石川隆介訳、現代企画室・3024円