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「デービッド・アトキンソン―新・所得倍増論」書評 実は低い生産性、鍵握る経営者

評者: 諸富徹 / 朝⽇新聞掲載:2017年02月12日
デービッド・アトキンソン新・所得倍増論 潜在能力を活かせない「日本病」の正体と処方箋 著者:デービッド・アトキンソン 出版社:東洋経済新報社 ジャンル:経済

ISBN: 9784492396353
発売⽇: 2016/12/09
サイズ: 19cm/305p

デービッド・アトキンソン―新・所得倍増論―潜在能力を活かせない「日本病」の正体と処方箋 [著]デービッド・アトキンソン

 本書によれば、世界第3位の経済大国日本の生産性(=GDP/人口)は、なんと世界で第27位だという。日本は、絶対量で3位でも、「1人当たりの付加価値生産」では、多くの国々に劣後しているのだ。しかも1995年以降は、日本が他国の生産性上昇に突き放された、まさに「失われた20年」だったという。
 輸出(世界第4位)、研究開発費(3位)、ノーベル賞受賞者数(6位)など、日本が世界で絶対数では優位を占める指標でも、1人あたりに直すと途端に低い値が出てきて、我々を驚かせる。著者は、GDPなどで日本が優位を占めてきたのは、人口が多かったからであって、今後、人口減少が本格化すれば、その優位性は失われる可能性が高いと警告する。
 ここに、「生産性」に注目すべき理由がある。GDPは「生産性×人口」で決まるので、人口が減少しても生産性を高めればその影響を相殺できる。今後は、人口増という追い風がなくなるからこそ、生産性向上はますます重要になる。
 では、生産性を高める鍵はいったい何か。日本は決して潜在能力が低いわけではない、と著者は強調する。その証拠に、日本は労働人口に占める高スキル労働者の比率が世界一高いという国連データが示される。問題は、質の高い労働者を活用しても高い付加価値を生み出せない企業経営者にある。実際、日本企業はITを生産性向上につなげられなかった。
 経営者がデータサイエンスによる分析を駆使しつつ、女性の活用、企業合併と統廃合、人材の再配分、仕事のやり方(働き方)の改革、無形資産への投資などを通じて付加価値を高められなかった点にこそ、低迷の原因があるという。「政府が経営者にプレッシャーをかけるべきだ」という本書の提言は、賛否が分かれるかもしれない。だが、「生産性の重要性」と「経営者の無策」に光を当てた本書の警告は、傾聴に値する。
    ◇
 David Atkinson 65年英国生まれ。元・金融アナリスト。国宝補修などを手がける小西美術工藝社社長。