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開高健・山口瞳のエッセイ選、愛惜の念

PR誌の後輩・小玉武さん編集

 昭和30年代、高度経済成長期へとぐいぐい向かってゆく社会を映し、しゃれた話題でちまたを彩った「洋酒天国」。寿屋(現サントリー)のPR誌は、開高健(1930~89)と山口瞳(1926~95)という、のちに大作家となるふたりが才能を開花させる舞台となった。そこでともに働いた小玉武さん(80)が、敬愛する2人の「ベスト・エッセイ」を選び抜き、相次いで出した。時代の変わり目に、愛惜の念を込めて。
 洋酒天国編集長の開高は芥川賞を受け、行動する作家として名ルポルタージュでも知られた。開高の編集業務を継いだ山口は直木賞を受け、都会人として、そして男性として生きる哀歓を描いた。
 小玉さんが入った寿屋宣伝部は、活気に包まれていた。作家業多忙にて開高は嘱託となっていたが、折にふれ、大きな声で手ほどきをしてくれた。「業務日誌を書けば、山口さんの指導の筆がぴしり。伝える、という意味で無形の財産を得ました」
 出向先の出版社でも雑誌を作るなど活字から離れなかった小玉さん。開高や山口、「アンクルトリス」のイラストで知られる柳原良平らと社会が変わるさまを描いた『「洋酒天国」とその時代』で2008年、織田作之助賞を受けた。
 今回、『開高健ベスト・エッセイ』『山口瞳ベスト・エッセイ』(いずれも、ちくま文庫)を出版したのは、平成が終わる時勢を見つめてのこと。「来年の改元で空気は変わり、ますます昭和が遠くなる。それだけに、戦後を駆け抜けた彼らの作品を、気軽に手に取れる格好で残したかった」
 華麗な言葉遣いに引き寄せられる開高作品には、「越前ガニ」と題し、雄のカニの足のうまさや、雌の甲羅の中身を「海の宝石箱」にたとえたウィットあふれる文章も。淡々として心に染みこんでくる山口作品には、飛行機事故で世を去った向田邦子を悼み、つづり続けた「木槿(むくげ)の花」8編が収められている。(木元健二)=朝日新聞2018年6月13日掲載