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蛇笏賞に有馬朗人さん、友岡子郷さん

 俳壇最高の賞とされる蛇笏(だこつ)賞の第52回は、有馬朗人さん(87)の句集『黙示』(角川文化振興財団)と、友岡子郷(しきょう)さん(83)の句集『海の音』(朔〈さく〉出版)のダブル受賞となった。審査員に「動と静」と評された対照的な2作。年齢を重ねた作者が、自らの言葉の世界を深め、それぞれにたどり着いた境地がうかがえる。(小川雪)

言語や文化超える力に 有馬朗人さん

 東大総長や文部大臣を歴任し、文化勲章も受章した原子核物理学者。今回の受賞に、「(俳句は)回り道ばかりで、やっとかいなという感じ」とおどけるが、分野を超えた旺盛な好奇心と行動力が、俳人としての血肉になっている。
 《天高し分れては合ふ絹の道》
 海外詠も多く、これは中国での句。第10句集となり「句がさらに生き生きとして諧謔(かいぎゃく)味を増し、人生の幅や厚みを感じさせる」と評価された。
 15歳の時、俳句を愛した父のうれしそうな顔が見たくて詠み始めた。だが翌年に父は病死。生活のために、学問の傍ら家庭教師や行商、肉体労働など何でもしたが、俳句はやめなかった。「安上がりで、どこでもできたから」。笑顔の奥に、苦しい時も寄り添ってくれた俳句への信頼がある。東大で山口青邨に師事し、1990年に「天為(てんい)」を創刊、主宰を務める。
 句集名の「黙示」は、17音と短く、すべてを説明しない俳句の特性から。その短さがもたらす象徴性ゆえに、「俳句は言語や文化を超えた相互理解を可能にする」との信念を抱く。国際俳句交流協会会長でもあり、近年は俳句の世界遺産登録に向けて旗を振る。「みんなが文学に親しみ、自然へ目を向ければ平和になる。俳句の力は大きい」

大切なもの守り通す心 友岡子郷さん

 受賞作は第11句集。表紙の静穏な海辺の写真のごとく、「澄み切った蒸留水のような世界」と評された。「一点にとどまり、世界が作者の周りを流れてゆく」とも。深く透明な池を潜るような読後感。時には異界への口がぽっかりと開いている。
 《手毬唄あとかたもなき生家より》
 「日常の中で、心のままに詠んだだけ。あえて言えば、本当に大切なことを教えてくれるのは偉い人ではなくふつうの人。その思いを大切にしたい」と話す。
 根底には1995年、神戸で被災した阪神大震災の経験がある。〈倒・裂・破・崩・礫の街寒雀〉の句が有名だ。家族も無事だったが、不自由な暮らしが続いた。ある寒い夜、まっ暗な街を走るバスで、初老の男性が「皆さん、ご一緒に、黙禱(もくとう)しましょう」と口にした。疲れ切り、無言だった乗客からすすり泣きがもれた。心の深いところへ届く、切実な言葉。「彼のような心で詠みたい」と痛感した。以来、前にもまして現場へ足を運び、風を感じ、においを嗅ぐことを大切にする。
 「自然が、心の奥底から何かを引き出してくる。自然に見られている感覚がある」。自らの原点は「マイナー・ポエット」。仰々しい華やかさとは無縁だが、大切なものを守り通す。そんな詩人だ。=朝日新聞2018年6月13日掲載