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「アメリカ医療制度の政治史」書評 なぜ公的保険制度ができないか

評者: 諸富徹 / 朝⽇新聞掲載:2014年06月01日
アメリカ医療制度の政治史 20世紀の経験とオバマケア (南山大学学術叢書) 著者:山岸 敬和 出版社:名古屋大学出版会 ジャンル:医学

ISBN: 9784815807696
発売⽇:
サイズ: 22cm/317,52p

アメリカ医療制度の政治史 [著]山岸敬和

 オバマ政権が2010年に、米国にとって初の国民皆保険制度を創設したのは画期的だ。だがそれは、日本のような公的保険制度ではない。米国社会に深く根づいた民間保険制度を前提とし、個人にその加入を義務づけるものだ。皆保険実現のため、低・中所得者には財政支援が行われ、民間保険業者には、既往症を理由とした加入拒否が禁じられる。抜本改革を避けた穏当な改革だが、激しい政治的対立が引き起こされた。なぜ米国で公的保険制度は導入できないのか。

 本書は20世紀米国の医療制度発展史を辿(たど)ることで、この問いに回答を与える。ルーズベルト、トルーマン両政権による公的保険制度導入の挫折後、民間保険制度が浸透、政府介入を嫌う医師会がそれを支持し、米国医療制度の方向性が決定づけられたことが、丁寧に描かれている。同テーマの好著、天野拓『オバマの医療改革』(勁草書房)と併読することで、より理解が深まるだろう。
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名古屋大学出版会・4860円