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「驚くべき日本語」書評 世界言語にもなりうる可能性

評者: 隈研吾 / 朝⽇新聞掲載:2014年04月13日
驚くべき日本語 (知のトレッキング叢書) 著者:ロジャー・パルバース 出版社:集英社インターナショナル ジャンル:言語・語学・辞典

ISBN: 9784797672657
発売⽇: 2014/01/24
サイズ: 19cm/185p

驚くべき日本語 [著]ロジャー・パルバース

 一種の日本礼賛本かと読みはじめたら、見事に裏切られた。筆者は、日本語を礼賛するが、現在の日本、日本人に対して批判的である。日本語と日本人は別物であり、日本語は「驚くべき」であるが、日本人はもっとタフになって、自分を開き、国を開けと、筆者は提案する。
 日本語の持つ大きな可能性に対しての分析は、4カ国語を自由にあやつる筆者ならではの説得力がある。極めて限られた語彙(ごい)をベースにしながら、そこに接頭語、接尾語などを自由に付加することで、他の言語では達成できないような効率性、柔軟性を持つ日本語は、充分に英語にも匹敵する世界言語たりえるという分析である。日本語を他言語に通訳する場合、同一内容が倍の長さになるともいわれるが、日本語の本質的な効率性、機能性ゆえだったのである。オノマトペの多用も、日本語の表現力を倍化させているらしい。
 しかも日本語は曖昧(あいまい)な言語ではないと、筆者は断定する。国際的な場へ出る勇気がない臆病で怠慢な日本人が、閉鎖的な自分を守る口実として、「曖昧」といっているだけというのだ。
 言語としてみると日本語は全く曖昧ではなく、周辺の文脈によって、明確に意味が規定される。だからこそ、短いセンテンスで、多くの内容を伝えることができるそうである。
 「曖昧だ」とか、「こんな丁寧な言語はない」というのは、世界を知らない日本人の自己陶酔的な言い訳にすぎず、しばしば日本語の敬語や丁寧表現は、直訳すると、とんでもなく図々(ずうずう)しい表現に聞こえるらしい。日本人であることを自己否定して、しかも日本語のグローバルな可能性にかけろというのが筆者のアドバイスで、模範とすべきはなんと宮沢賢治である。実例も満載で、彼の国際性を再発見した。「おもてなし」に必要なのは勇気と努力である。
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 早川敦子訳、集英社インターナショナル・1080円/Roger Pulvers 44年生まれ。作家、劇作家、演出家。