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斎藤たま「暮らしのなかの植物」書評 昔のガキ大将の代役を果たす書

評者: 出久根達郎 / 朝⽇新聞掲載:2014年02月23日
暮らしのなかの植物 著者:斎藤 たま 出版社:論創社 ジャンル:自然科学・環境

ISBN: 9784846012595
発売⽇:
サイズ: 20cm/319p

暮らしのなかの植物 [著]斎藤たま

 昔は「ガキ大将」というものが子どもの世界で牛耳を執っていて、年下の者に遊びのルールだけでなく、生活の知恵まで伝授していた。たとえば、有毒植物の存在。シキミやヒマの実は猛毒であること。青梅はかじるな。ジャガ芋の芽は毒。
 いなかでは大抵の家の庭に、アセビの木があった。毒の木、とガキ大将に教えられた。便所にこの枝葉が沈められていた。本書によれば、ウシコロシの別名がある。ウシのシラミを退治したからである。ウシはウジの意でもあったようだ。庭木や草花は、それぞれ用途があって植えられていた。生活が近代化すると共に、本来の役割は忘れられていった。ガキ大将の伝承も絶えた。本書はいわば昔のガキ大将の代役を果たしている。一本の草や木が、日本各地でこんな風に有効に用いられていた、という記録は、父祖の暮らしの証言であって、現代人が知っておいて損はない。植物に頼らざるを得ない世がこないとも限らぬ。
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 論創社・3150円