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「スズメ つかず・はなれず・二千年」書評 身近な鳥には驚きがいっぱい

評者: 三浦しをん / 朝⽇新聞掲載:2013年12月08日
スズメ つかず・はなれず・二千年 (岩波科学ライブラリー 生きもの) 著者:三上 修 出版社:岩波書店 ジャンル:自然科学・環境

ISBN: 9784000296137
発売⽇:
サイズ: 19cm/118p

スズメ つかず・はなれず・二千年 [著]三上修

 部屋の窓から、スズメが遊ぶ姿を眺めるのが好きだ。ある日、スズメのヒナが地面をよちよち歩いているのを発見した。おおいに気を揉(も)むも、親スズメがちゃんと餌を運んでおり、翌朝にはヒナも見事に飛ぶことができたようだった。ほっ。
 それにしてもなぜ、うまく飛べないくせにヒナは巣から出たんだ? 身近な鳥なのに、スズメのことをよく知らないなと思い、本書を読んでみた。スズメの生態はもちろんのこと、スズメと人がどうかかわってきたのか、農業や文化の面からも多角的に説明されていて、とても楽しく、驚きがいっぱいだ。「うまく飛べないくせに巣から出るヒナ」の謎も解けた。けっこうスパルタ。詳しくはぜひ本書をご覧ください。
 スズメは、人の生活圏のそばでしか繁殖しないのだそうだ。だったら、この愛らしい小鳥とぜひとも共存共栄したいところだが、スズメは実った稲を食べる農害鳥でもある。人間側は当然、案山子(かかし)を立てたりザルを使った罠(わな)で捕らえたりと、さまざまな手段で反撃してきた(スズメの焼き鳥は、特に冬が美味とか)。
 それでも旺盛な繁殖力を見せていたスズメだが、近年、個体数が半減している。著者は観察と調査を重ねたすえ、最近の高気密をうたう住宅には、軒下などにスズメが巣を作れるような隙間がないためではないか、と推測する。餌場である草ぼうぼうの空き地が減って、スズメの子育てが困難になったことも一因のようだ。
 スズメが暮らしやすい町とはなにかを考えることは、私たちにとって息をしやすい町とはなにかを考えることにもつながるだろう。本文のみならず著者プロフィールまでもユーモアにあふれていて、子どもも大人も楽しめる。俳句に詠まれ、昔話にも登場する親しみ深い隣人(隣鳥?)が、ますます身近に感じられること請け合いだ。
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 岩波科学ライブラリー・1575円/みかみ・おさむ 74年生まれ。岩手医科大講師。著書に『スズメの謎』。