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多彩な交遊から浮かぶ人間像

坪井正五郎 日本で最初の人類学者 著者:川村 伸秀 出版社:弘文堂 ジャンル:自然科学・環境

価格:5400円
ISBN: 9784335561207
発売⽇:
サイズ: 22cm/382p

自由闊達、独立独歩、機智に富んだ人柄に誰もが感嘆する−。日本人として最初の人類学者である坪井正五郎の彩り豊かな人々との交流を生き生きと描いた初の評伝。没後100年記念出版…

評者:出久根達郎 / 朝⽇新聞掲載:2013年11月17日

坪井正五郎―日本で最初の人類学者 [著]川村伸秀

 坪井正五郎とは、何者であるか。彼が「コ字付け歌」と題して詠んだ狂歌で知れる。「古物(こぶつ)古跡コロボックルは好めどもコの字の病ひこれでコリゴリ」。コの字の病とは、コレラのことである。
 コロボックル、は耳にしたことがおありだろう。アイヌ語で、フキの葉の下に住む人を意味する。坪井はアイヌ以前の日本列島先住民だと主張した。現在はDNA研究によって否定されているが、坪井といえばコロボックル、と受けとめられている。不幸なことに誤った学説を唱えたために、坪井の業績と生涯がかすんでしまった。日本人類学のパイオニアなのに、その業績は狭小化され、世間から忘れられてしまった。
 本書は坪井正五郎の復権を願って、初めてまとめられた伝記である。ユニークなのは、坪井と交流した人物たちから見た伝記であること。どんな者とつきあっていたかを見れば、その人の本質がわかる。
 本書に登場する八百余人の顔ぶれは、なじみのない人物が多い。一方、へえ、この人がこんな所に、と意外な場面で意外な顔に出会う楽しさがある。バラエティーにとんだ交遊こそが、坪井の隠れた業績かも知れない。
 民俗学者の柳田国男と、粘菌学・博物学者の南方熊楠(みなかたくまぐす)を結びつけたのは坪井だし、『世界お伽噺(とぎばなし)』の巌谷小波(いわやさざなみ)にその材料を提供した関係で、三越呉服店のブレーン組織「流行会」の一員になる。世界各国の流行を研究する会で、坪井はまた児童用品研究会にも参加した。燕(つばめ)の形をしたブーメラン(商品名は、飛んでこい)や、カレンダーつき筆入れほか、種々の玩具や学用品を発明し販売に協力した。
 冒頭の狂歌でわかるように、遊び心に満ちた学者であった。その人柄を慕って、鳥居龍蔵や金田一京助ら後輩が集まった。坪井は人材を発見し育てた学者といえる。大正二年ロシアで客死して、今年は百年になる。記念の書である。
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 弘文堂・5250円/かわむら・のぶひで 53年生まれ。山口昌男『敗者学のすすめ』などを編集したフリーの編集者。