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「孤立無業(SNEP)」書評 人間の孤立が就労意欲を奪う

評者: 水無田気流 / 朝⽇新聞掲載:2013年10月20日
孤立無業〈SNEP〉 著者:玄田 有史 出版社:日本経済新聞出版社 ジャンル:社会・時事・政治・行政

ISBN: 9784532355777
発売⽇:
サイズ: 20cm/236p

孤立無業(SNEP) [著]玄田有史

 日本の若年無業者を「ニート」概念を用いて論じた玄田有史が、新たな分析視角を提唱した。ニートが15歳から34歳の無業者を指すのに対し、本書が取り上げる「孤立無業(Solitary Non‐Employed Persons、SNEP)」は、20歳以上59歳以下の在学中を除く未婚無業者のうち、ふだんずっと一人か、一緒にいる人が家族以外にいない人々を指す。
 鍵となるのは孤立。ニートが就労を軸とした概念であったのに対し、孤立無業は他人とのつきあいの有無が眼目である。他人との交際を持たないがゆえに、通常その姿が認識されない人々を可視化する分析概念といえる。私見では、無業者問題を検証するに当たり、孤立無業はニート以上に現実味のある年齢設定だ。いわゆる高齢ニートや、高齢未婚者の孤立問題等を検証する上でも示唆に富む。
 2011年現在、60歳未満の未婚無業者は255.9万人で、その6割以上を占める162.3万人が孤立無業だという。一方、ニートは60万人、フリーターは176万人と近年減少傾向にあるが、彼らは安定した職を得たというより、単に35歳を超えて統計上の区分から消えただけかもしれない。失業率が低下した時期にも、孤立無業は増加の一途をたどっているという。
 さまざまな分析視角から明らかになるのは、いかに孤立状態が、人間から求職動機や就労意欲を奪うかという事実だ。一方、たとえば友人とのつながりは、人脈以上に就労への客観的な助言や「気づき」を与えてくれる、と筆者は指摘する。これは家族のように身近すぎる相手ではかえって難しい役割だ。独り暮らしよりも、家族と同居している孤立無業のほうが、就労意欲が低いとの指摘もある。2000年代に入り、誰もが無業者になれば孤立しやすくなるという「孤立の一般化」が広がっている。孤立と無業の根深く緊密な関係を、再認されたい。
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 日本経済新聞出版社・1575円/げんだ・ゆうじ 64年生まれ。東京大学社会科学研究所教授(経済学)。