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神秘の縄文、岡本太郎も刮目した美しさ 特別展「縄文―1万年の美の鼓動」

「火焰型土器」 国宝 火焰型土器 新潟県十日町市 笹山遺跡出土 新潟・十日町市蔵(十日町市博物館保管) 写真:小川忠博
  1. 別冊太陽 縄文の力 [監修]小林達雄
  2. 縄文人がぼくの家にやってきたら!? [著]山田康弘
  3. 縄文美術館 [写真]小川忠博 (改訂新版が7月4日発売予定)
  4. 縄文人に相談だ  [著]望月昭秀

(1)「別冊太陽 縄文の力」は、縄文時代研究の大家、小林達雄さんが監修。複数の研究者による最先端の研究結果を盛り込みつつ、縄文時代の文化や社会を分かりやすく解説した本です。遺跡や発掘の様子、出土品などを、写真を多用してビジュアルに紹介。縄文の美に注目し、大々的に世に出した岡本太郎についても触れています。

 「初めて縄文時代について知る人にも、学術書は手に取りにくいけれど砕けすぎた本も……という人にもおすすめ。縄文時代をまんべんなく知ることができます。岡本太郎さんが初めて縄文土器に出会い驚いたのが、実は当館なんです。本展では、岡本太郎さんが自ら撮影した縄文土器も展示します。岡本太郎さんが芸術家の目線から注目したのは、立体的で力強い装飾の縄文中期の作。一般に縄文土器のイメージというと、同じ中期の火焰型(かえんがた)土器だと思いますが、実は縄文土器の形や文様は、縄文草創期から晩期までに大きく変化しているんです。火焰型土器も縄文土器の『美のうねり』の一コマ。縄文の造形美の移り変わりを展示でご覧頂けます」

「猪形土製品」 重要文化財 猪形土製品 青森県弘前市 十腰内2遺跡出土 青森・弘前市立博物館蔵 写真:小川忠博
「猪形土製品」 重要文化財 猪形土製品 青森県弘前市 十腰内2遺跡出土 青森・弘前市立博物館蔵 写真:小川忠博

 本の中では、汽車の窓から散乱する貝殻を見て大森貝塚を発見した、エドワード・モースの話も。

 「私たち考古学者は、建築現場などで地面が掘り返されていると、つい見いってしまう。何か出土してないかなとか、3万年くらい前の地層まで掘ってるなとか。縄文人は自然や地形に対する知識が深く、災害に強い場所を選び暮らしていたので、縄文人ならこの場所は選ばないよねと、同じ目線で考えることも。この本からは、縄文人に思いをはせる考古学者の姿も感じられます」

(2)著者は国立歴史民俗博物館(千葉県佐倉市)の研究者。「縄文人がぼくの家にやってきたら!?」という書名と同じ設定の下で、考古学者が様々な疑問に答えていく、大人も楽しめる児童書です。

 「縄文人はどこにいたの? 家族構成は? 仕事は? そんな疑問を、現代と比べながら紹介する楽しい本です。研究者は、解明されていないことや異論がある部分をぼかして説明することが多いのですが、子どもにも分かりやすいように言い切りのかたちが多く、身近な疑問は明解に答えてあります。縄文時代を学べる施設の情報も掲載されています」

「遮光器土偶」 重要文化財 遮光器土偶 青森県つがる市木造亀ヶ岡出土 東京国立博物館蔵
「遮光器土偶」 重要文化財 遮光器土偶 青森県つがる市木造亀ヶ岡出土 東京国立博物館蔵

(3)「縄文美術館」は、縄文時代の遺跡や出土品を撮り続けてきた写真家の小川忠博さんが、土器や土偶のかたちそのものが持つ美しさを紹介。写真をメインに、考古学者による解説が添えられています。縄文人が狩りや釣りをしたような自然の風景も収録され、当時の人々がどういった環境で暮らしたのかという想像を助けます。

 「縄文の造形が好きという方に最適の本です。ライティングを工夫して凹凸を強調し、黒曜石の鋭さや漆の光沢といった素材のもつ美しさも伝えます。使われた当時のように土偶を立たせて撮るなど、本来の姿を大切にしています。小川さんは土器の展開写真を広く普及させた方でもあるんです。土器を展開写真にすることによって、文様が繰り返し配置されている様子が写真でも分かるようになり、土器研究を進めました。小川さんの写真は、本展の図録などにも使用しています」

(4)フリーペーパー「縄文ZINE」の編集長が、現代人の悩みに「縄文的」に回答する「縄文人に相談だ」。「女子なのに女友達がいません」という悩みには、「重要なのは子孫繁栄だから大丈夫」と答え、「昔から整理整頓ができません」には「それって旧石器時代のスタイルですね」と返します。

「土製耳飾」 重要文化財 土製耳飾 東京都調布市 下布田遺跡出土 江戸東京たてもの園蔵
「土製耳飾」 重要文化財 土製耳飾 東京都調布市 下布田遺跡出土 江戸東京たてもの園蔵

 「縄文時代の知識をしっかりふまえた上で、縄文人ならこう答えるかも、と書かれた内容は、考古学者が読んでもクスリと笑えます。映画や音楽などのサブカルの知識がたっぷり入っていて、楽しく気軽に読めます。かつ、編集長の思いがあふれるボリュームで読みごたえあり。おそらく縄文人も、将来が不安とか、仲間とうまくできないとか、ドングリがうまく拾えないなんて悩みがあったかと思うんですけど、その辺りをうまくアレンジしてまとめた本だと思います」

編集部のおすすめ

ときめく縄文図鑑 [著]譽田(こんだ)亜紀子
 奈良で出会った土偶に一目ぼれした「土偶女子」のフリーライターが、女性目線で心躍る出土品を紹介する一冊。土器や土偶にはそれぞれ、著者のツッコミやキャッチコピーがちりばめられ、「じわじわくる度」「ミステリアス度」などの判定チャートも。今展の目玉の一つ、国宝「中空土偶」のページには、男女が判別できない見た目に「ジェンダーレス土偶」のキャッチが。

「中空土偶」 国宝 土偶 中空土偶 北海道函館市 著保内野遺跡出土 北海道・函館市蔵(函館市縄文文化交流センター保管) 写真:小川忠博
「中空土偶」 国宝 土偶 中空土偶 北海道函館市 著保内野遺跡出土 北海道・函館市蔵(函館市縄文文化交流センター保管) 写真:小川忠博