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「アンダルシアの都市と田園」書評 支配の変転、混血による創造

評者: 隈研吾 / 朝⽇新聞掲載:2013年04月07日
アンダルシアの都市と田園 著者:陣内 秀信 出版社:鹿島出版会 ジャンル:歴史・地理・民俗

ISBN: 9784306045835
発売⽇:
サイズ: 21cm/369p

アンダルシアの都市と田園 [編]陣内秀信+法政大学陣内研究室

 国という単位で世界を記述する代わりに、より小さな単位を用いて、世界を記述しようという動きが盛んである。本書もまた、スペインという単位に代わって、新たな単位をさぐる試みである。
 発見された小さな単位は、スペイン南部のアンダルシア。紀元前千年頃、その地に花開いたタルテソス文明は、西ヨーロッパ最古の君主国であった。その後、この地域の支配者の変遷は、世界史の縮図そのものである。カルタゴからローマ帝国、そしてゲルマンの西ゴート王国。さらにイスラム支配の800年の後、キリスト教によるレコンキスタと呼ばれる奪還がある。
 政治支配のめまぐるしい転換が、都市、建築に投影されていく様子が圧巻である。「スペイン建築」などというものはどこにもない。ましてや、「ヨーロッパ建築」などというものはどこにもなく、すべてが混血による創造であることが、美しい写真と平面図を通じて伝わってくる。
 さらに新鮮であったのは、建築様式と農業形式のパラレルな変化。イスラムが灌漑(かんがい)技術を導入し、集約的な農業を推進した。しかし、レコンキスタによって、土地利用は粗放化し、大土地所有制(ラティフンディオ)をベースとする牧畜中心となって、今日の風景につながる。
 その進行にも地域差があり、イスラム的農業が継続した高地アンダルシアでは、小さな集落が生き残り、大土地所有が進んだ低地アンダルシアでは、都市集中が起きた。
 この状況が、1990年代以降の、観光ブームによって、違うフェーズに移行するとの指摘がおもしろい。小集落、小都市が再び注目されて、スペイン北部に比べて遅れをとっていたアンダルシアが復活しつつあるのである。評者は高地アンダルシアの中心都市グラナダにオペラハウスを設計中だが、なぜこのプロジェクトが立ち上げられたかが、よくわかった。
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 鹿島出版会・3675円/じんない・ひでのぶ 47年生まれ。法政大教授(イタリア建築史・都市史)。