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敵として登場した人たちが最後に見せる寂しさに胸が熱くなる

「『アキラとあきら』は、それまで読んでいた池井戸作品とは違い、主人公がふたりいるのが新鮮でした。子ども時代の描写がけっこう長く、そこから青年編になっていく。大河小説ともいうべきストーリー運びも、他の池井戸作品とはちょっと違う感じがします」

 長い作品なのに、長さをまったく感じなかった。そう語るくまざわ書店・津田沼店の橋本店長。池井戸作品は、出るたびに読んできたそうだ。

 ストーリーは、零細工場の息子・山崎瑛と、大手海運会社・東海郵船の御曹司・階堂彬のダブル主役。山崎瑛は実家が倒産して辛苦を味わい、階堂彬は祖父の死をきっかけに、父と二人の叔父たちの対立に巻き込まれる。
 子ども時代、一瞬すれ違ったふたりは、互いに自らの運命に抗って道を模索。同じ銀行に勤めることになる。

「ふたりの境遇はまったく違います。でもよくあるような、金持ちと貧しい人を対比させ、金持ちイコール悪、みたいな描き方ではない。ふたりともすばらしいキャラクターですが、僕はむしろふたりよりも〝悪役〟でもある階堂彬のふたりの叔父さんに興味を持ちました。やっていることもむちゃくちゃで、前半は『あんな叔父さんたち、やられちゃえばいいのに』と思って読んでいましたが、事業を手放さざるをえなくなる下りを読むと、もしかして裏の主人公はこの人たちかも、と……」

 兄弟間のライバル心やコンプレックス、父親に認められたいという気持ちが、ふたりの叔父を頑なにしていった。そういう心理的な面をベタに描くのではなく、あくまでエンターテイメントとして書いているところも魅力だと、橋本店長。

 心に染みたのは、晋(すすむ)叔父と弟の崇(たかし)叔父が語らうシーン。

「ふたりの主人公が、困難な状況から立ち上がるという点も魅力的ですが、敵として登場した人たちが最後に見せる寂しさに、じ~んときました」

 人生、勝つにしろ負けるにしろ、ギリギリのところで闘わざるをえない時が誰にでもある。そこを描いているところが、池井戸作品の魅力でもある。しかも善悪二元的ではなく、人間そのものを描こうとしている点に、共感するという。

 池井戸作品は、ハラハラドキドキ、手に汗握るスピード感がある。どんな展開になるのかが知りたくて、初めてのときはつい一気読みしがち。しかし間を置いて読み直すと、また、新たな発見がある。

「正直に告白すると、『アキラとあきら』も、一回目は子ども時代をちょっと流し読みしてしまいました。でも読み返した時は、そこも丁寧に読みました。すると、『あぁ、こういうことだったのか』と納得することがいろいろある。かつての同級生が、大人になって思いがけない人物となって登場したり……。そういった遊び心も、読んでいて楽しいですね」

 同じ作品でも、自分の年齢や立場が変わると、感じ方が変わってくる。また初めての時は主人公に感情移入しながら読むけれど、読み返すと脇役の視点にも立つことができ、複眼的に楽しむこともできる。だから同じ本をしばらくたって読み直すのも、読書の醍醐味だ、と橋本店長。本が本当に好きな人ならではの読み方といえそうだ。

 読書に目覚めたのは中学時代。椎名誠、井上ひさし、村上春樹など、さまざまな作家の作品を幅広く読んできた。20歳を過ぎた頃から、レイモンド・チャンドラーやレイモンド・カーヴァーなど、翻訳小説もよく読むように。
 読書は主に、寝る前だが、休日の午前中はファミレスで朝食を取りながら楽しんでいる。

 書店に就職したのは、もちろん本が好きだから。池井戸作品に関しては、自分自身社会人になったからこそ、心に深く染みるという。

「ビジネス小説の側面もあるし、ミステリー的な要素もありますが、人生の機微を描いているのですごく感情移入できます。池井戸作品には、中小企業の社長さんもよく登場します。私は店長になって8年ですが、自分の仕事と重ねあわせて読むことも多いですね。銀行との交渉こそしませんが、人をどう使うかとか、とてもためになります。まぁ、私は池井戸作品の登場人物のように、人格者ではありませんが(笑)」