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「東大→JAXA→人気数学塾塾長が書いた数に強くなる本」書評 状況を数字で把握できる力が肝心

東大→JAXA→人気数学塾塾長が書いた数に強くなる本 [著]永野裕之

 ITやAIの発達など「数字が判断と予測の基準となる世界」が急激に広がっている現在。仕事の現場では「日本における乗用車の年間販売台数」など、経営の根拠となる数字を求められる場面は、ますます増えるだろう。同時に、数字強者と数字弱者が生まれ、格差が広がるのではないか。後者である私は不安にさいなまれる。
 著者によると、数に強い人とは「数字を比べること」「作ること」ができ、「数字の意味を知っている」人のことだという。肝心なのは、数学の難問が解けることではなく、状況を数字で把握できる能力。たとえば冒頭の車の販売台数は、人口×車の所有者の割合×買い替え頻度×新車を購入する割合、という式で推定が可能となる。その場合、コンマ何ミリの細部にこだわるより、ざっとした予測がはずれないための、正しい論理構築力がモノをいう。
 本書では「ピタゴラス音律」「黄金比」といった、数の魅惑的な話とともに、数に向き合う大切な姿勢として、大経済学者、ケインズの言葉が引かれている。「私は正確に間違うよりも、むしろ漠然と正しくありたい」――なんだか私でも生き残っていけそう、と思えてくる。=朝日新聞2018年6月23日掲載