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『これが物理学だ! マサチューセッツ工科大学「感動」講義』書評 熱血教授、好奇心わしづかみ

評者: 川端裕人 / 朝⽇新聞掲載:2012年12月02日
これが物理学だ! マサチューセッツ工科大学「感動」講義 著者:ウォルター・ルーウィン 出版社:文藝春秋 ジャンル:自然科学・環境

ISBN: 9784163757704
発売⽇:
サイズ: 20cm/403p

これが物理学だ! マサチューセッツ工科大学「感動」講義 [著]ウォルター・ルーウィン

 アメリカの名門マサチューセッツ工科大学(MIT)の教養課程で、物理学入門の講義を担当する熱血教授がいる。ある日の講義風景はこんなふう。重さ15キロの鉄球をつり下げ、自分の顎(あご)の下まで引き上げてから振り子運動させる。手を離れた鉄球はもの凄(すご)い勢いで戻ってくるが、顎の直前でぴたりと止まり次の周期に入る。決して顎を砕いたりしない。学生は、手に汗を握る実演によって、鉄球が手放された高さまでしか戻らないことを知る。つまり、エネルギー保存の法則を体感する。
 講義では毎回なんらかの実演が行われ、教授自らが振り子の重りになったり(力学)、スポットライトを使い室内で青空や虹を再現したり(光学)、様々な方法で学生たちの知的好奇心をかき立てる。本書はその「脳みそをわしづかみにする」講義を熱血教授みずから再現したものだ。
 講義の意図は「物理学を好きにさせること」。電気と磁気を統合する方程式を学んだ後、学生に一本ずつ水仙を贈る“儀式”が象徴的だ。熱血教授いわく「マクスウェルの方程式四つ全部を初めてこんなふうに目の当たりにし、その完全さ、美しさ…を鑑賞する機会は、きみたちの人生でたった一度、これっきりだろう」。「(方程式を覚えているより)見えたものの美しさを覚えているかどうかのほうが、ずっとずっと重要」と。
 もっとも、「楽しさ」「美しさ」を伝えるだけで終わらない。初期講義で物理学の基礎は測定だとし、必ずつきまとう様々な誤差や、その取り扱いを述べる部分は秀逸。自身がかかわったX線宇宙物理学草創期の挿話とあいまって、世界を説明しつくそうとする物理学の欲望と方法を鮮やかにイメージさせてくれる。
 自分にもこんな先生がいたら! と思う人も悲観されないよう。講義はすべてウェブ公開されている。検索すれば簡単に見つかるし、本書にも参照サイトが記されている。
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 東江一紀訳、文芸春秋・1890円/Walter Lewin 36年生まれ。マサチューセッツ工科大学教授。