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岩井俊二「番犬は庭を守る」書評 人間へのぎりぎりの信頼

評者: 朝日新聞読書面 / 朝⽇新聞掲載:2012年02月26日
番犬は庭を守る 著者:岩井 俊二 出版社:幻冬舎 ジャンル:小説・文学

ISBN: 9784344021235
発売⽇:
サイズ: 20cm/230p

番犬は庭を守る [著]岩井俊二

 原発事故で放射能まみれになった未来を舞台にした小説である。繁殖力が衰えた人類にとって、生殖能力こそがカネの源で、子を持つことはエリートの証し。臓器移植で「汚染」の少ない体になる行為も横行する。露骨な選別で命の価格は上がる一方、尊厳はとことんおとしめられるさまが、映像的な筆致で迫り来る。実在の地名や人名をもじった固有名詞のうち、極めつきは時代の弱者である主人公ウマソー・イアザッド。「生まれて、すみません」という声が聞こえてきそうである。結末に差すほのかな希望に、人間へのぎりぎりの信頼が投影される。地をはうような目線の低さが、極限下で変わるものと変わらぬものを、生き生きと描き出す。
    ◇
幻冬舎・1470円