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手塚正己「警備員日記」書評 観察して鮮やかに描いた人物像

評者: 逢坂剛 / 朝⽇新聞掲載:2012年02月05日
警備員日記 著者:手塚 正己 出版社:太田出版 ジャンル:小説・文学

ISBN: 9784778312831
発売⽇:
サイズ: 19cm/286p

警備員日記 [著]手塚正己

 著者はもともと、映像畑の人である。1992年には、日本海軍最後の戦艦〈武蔵〉の記録映画「軍艦武蔵」を制作、監督している。
 同題の活字本も出したが、思ったほど売れないため、次の作品を仕上げるまでの間、警備員のパートを始める。本書は、その苦労話をまとめたもので、小説とも手記ともつかぬ、微妙な色合いを持つ。
 工事現場などで、人や車の誘導をする警備員を、よく目にする。とかく見過ごしがちだが、本書を読むとその苦労がよく分かり、「ごくろうさん」と一声かけたくなる。
 映像の世界で、それなりの業績を残した著者だが、虚心坦懐(きょしんたんかい)にこの仕事と取り組む姿は、いっそすがすがしいものがある。上司や同僚、後輩の人となりをよく観察し、その人物像を鮮やかに描き出す筆力は、凡手の技ではない。ことに、〈師匠〉と呼ばれる先輩の描写に、精彩がある。
 著者には、映像の仕事と併せて著作の方面にも、視野を広げてもらいたい。
    ◇
 太田出版・1680円