1. HOME
  2. コラム
  3. To The Beer Bar
  4. To The Beer Bar~ちょいのみ親父の探訪記~ 第4回 梅田(大阪)

To The Beer Bar~ちょいのみ親父の探訪記~ 第4回 梅田(大阪)

文・イラスト:藤原ヒロユキ
文・イラスト:藤原ヒロユキ

鳥の巣 ホワイティうめだ店

 大阪生まれの私にとって、串カツはソウルフードと呼ぶにふさわしい。

 大阪から東京に移り住んで30年以上たつが、帰阪の際に「喰い逃したらあかん」と思うのは串カツである。お好み焼き、たこ焼き、きつねうどんと大阪フードは数あるものの、“ほんまもんの串カツ”を食べずして、上りの新幹線に乗ることはできないのである。

 しからば、ほんまもんの串カツとは、どのようなものなのか?

 まず、気取っていてはいけない。客も店員も、下世話なほうがいい。

 衣となるパン粉は粗びきがいい。細かい衣を売り物にしている店もあるが、いかがなものか。

 さらに、自由でなければならない。好きなものを好きな順番で好きなだけ食べられるのがいい。お任せで順番に出てきて、やれ「抹茶塩で喰え」だの「レモンを絞って喰え」だの大きなお世話だ。串揚げは串カツではない。

 ソースが銀色のバットになみなみと入っていて、そこに串カツをつける。着けるでも点けるでも漬けるでもない。どっぷりと一度浸けるのだ。

 もちろん、二度づけはマナー違反である。一度、口にして「ソースが足りなかったなぁ……」といった場合は、キャベツを少し丸めてスプーンの要領でソースをすくってかけるといい。

 さて、そんな“ほんまもんの串カツ”を食べることが出来る大阪の店のひとつが「鳥の巣」である。

 もちろんここは、クラフトビールや海外のビールが並ぶビアバーではない。

 しかし、なぜこの店に足が向くのか? それは、この店で「アサヒ・スタウト」が飲めるからだ。

 スタウトとは、アイルランド発祥の漆黒のビールで、代表的な銘柄はギネスである。

 しかし、この「アサヒ・スタウト」は、ギネス以上に濃厚でどっしりとしている。口当たりもトロリとしたフルボディのビールである。レーズンやイチジク、たまり醤油や年代物の紹興酒、オロロッソシェリーや焦がしたザラメ砂糖のようなフレーバーを楽しむことが出来る。アルコール度数も8%とリッチだ。グビグビと一気に飲むビールではない。

  串カツのネタの基本は牛肉である。講談社学術文庫の『大阪ことば事典』によると、「串かつ」とは「ごくうすく小さく切った赤身の牛肉を竹串にさして、小麦粉・パン粉をつけ、ヘット(牛脂)であげたもの」とある。「鳥の巣」でも、メニューの一番始めには「串カツ100円」とあり、これは牛肉のカツを表す。

 とは言え、今では串カツにも多くのネタがあり、玉ねぎ、うずら、なすび、エビ、紅しょうが、れんこんと豊富だが、「鳥の巣」で食べ逃してはならないのは、こんにゃく、玉子巻、高野どうふ、パイナップルである。

 「こんにゃくの串カツなんておいしいの?」と思われる方もいらっしゃるだろうが、こんにゃく自体にあまからい味がしみ込ませてあり、「アサヒ・スタウト」の濃厚なモルト感と相性抜群だ。玉子巻や高野どうふのダシ味、熱の入ったパイナップルの甘味も「アサヒ・スタウト」の芳醇で複雑なフレーバーにドンピシャなのだ。

  ところで、前出の『大阪ことば事典』だが、770ページを超える分厚い本で、6400もの大阪ことばが掲載されている。単なる大阪弁の事典ではなく、歴史的地名や風俗、習慣、年中行事なども解説されているのが凄い。また、全項目にアクセントが表記されているのも面白い。

 「すっかりわやですわ」「どんなりまへんなぁ」「しぶちんでんな~」「ほたえすぎやで」「この、いちびりがぁ」

 「鳥の巣」のカウンターではべたべたの大阪弁が飛び交う。内容がわからない場合は、『大阪ことば事典』で調べるといい(笑)。

  大阪梅田の「鳥の巣」。

 本当に、いい店だ。また訪れたくなる。