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「# Me Too」「ハイデガー」「ネコトーク」 三島賞など3賞贈呈式、3者3様のスピーチ

 第31回三島由紀夫賞・山本周五郎賞と第44回川端康成文学賞の贈呈式が22日、都内であった。受賞のあいさつからは作家それぞれの個性と創作への思いがにじみ出た。

「この瞬間欲している人に届く言葉がある」 三島賞・古谷田奈月さん

 三島賞は古谷田奈月さんの「無限の玄」(早稲田文学増刊女性号)。女嫌いの父をはじめ、男ばかりの家族の物語は性を鋭く問う短編だ。古谷田さんはあいさつの冒頭で、受賞作を掲載した編集部が関わる早稲田大学教授がセクハラで告発されたネットニュースに触れ、「編集部の人間ではないけれど、近くに感じていたので残念に思っている」と述べた。そして「唯一の希望は、告発した女性が『# Me Too』の動きで声を上げようと決意したこと。それがなければ一人でつらい思いを抱えていたかもしれない」と続けた。

 増刊女性号は反響を呼び、その後「すばる」5月号で特集「ぼくとフェミニズム」が組まれた。「特集に特集で答える、今度は男性側の声を取り上げるという動きに言論が生きていると感じました」と古谷田さん。「『#Me Too』と彼女の関係のように、今この瞬間欲している人に届く言葉がある」とゆっくりと言葉をつないだ。

「好きな時に好きな本を読むことができる幸運」 山本賞・小川哲さん

 山本賞は小川哲さんの『ゲームの王国』(早川書房)に。選考委員の荻原浩さんは上位2作が僅差で、次点の呉勝浩(ご・かつひろ)さんの『ライオン・ブルー』(KADOKAWA)を「『ほぼ山本周五郎賞』と本の帯に入れてほしい」と話した。
 小川さんは、荻原さんの言葉を受けて「第31回ほぼ山本周五郎賞を受けました」とあいさつ。スピーチを準備しようと前日に検索したグーグルで「退屈なスピーチの共通点は感謝が長いこと」という示唆を得たと言い、「謙虚に、完全に、すべて感謝で構成したスピーチをします」と編集者や家族、取材協力者への「ダイジェスト版」の感謝を述べて笑いを誘った。
 そして、ドイツの哲学者ハイデガーが「考える」と「感謝する」は語源が同じだと述べたことを引用し、「英語で言えば『think』と『thank』が同じだということ。つまり『Thank you』とはあなたについて考えるという意味。好きな時に好きな本を読むことができるという幸運に感謝し、そういう幸運な人を増やせるように精進したい」と締めくくった。

「小説とは、お坊さんが読むお経のようなもの」 川端賞・保坂和志さん

 川端賞は保坂和志さんの「こことよそ」(「新潮」2017年6月号)。保坂さんは「小説は二の次の生活をしたい。ずっとネコの世話に明け暮れていて、小説を考えるよりネコのことを考えている」。授賞式の様子をEテレ「ネコメンタリー」が取材に来ていると明かし、「ネコ最優先」「受賞作はネコが出てこないので残念」とネコトークを続けてから本題に。

 作家にとって小説とは。「この間、気がついた。お坊さんが読むお経のようなもの。日課だがメインではない。毎日書くが完成度はどうでもいい。そう考えると書き方が変わる。本来人が生きてしゃべって考えるように書けば良い。僕の小説は脈絡はないが飛躍はある、一貫性はないが矛盾はある」。さらに話は転じて子供時代へ。「落ち着きが無い。集中できない。大人の言うことを聞かない。約束を守らない。周りは誰も僕が作家になるとは思わなかった。小学校6年生のときに、家が近かった川端康成先生がノーベル賞を受賞して、『先生おめでとう』と言いに行ったことが今につながっているのかもしれません」。作風さながら簡単には収束しないあいさつになった。(宮田裕介、中村真理子)