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「手話からみた言語の起源」書評 言語は身振りから始まった?

評者: いとうせいこう / 朝⽇新聞掲載:2013年03月24日
手話からみた言語の起源 (手話の秘密シリーズ) 著者:高田 英一 出版社:文理閣 ジャンル:社会・時事・政治・行政

ISBN: 9784892597060
発売⽇:
サイズ: 22cm/319p

手話からみた言語の起源 [著]高田英一

 手話を使う人が身振りと一緒に音声でしゃべることがある。二つの言語の同時使用を「シムコム」と呼ぶらしい。
 著者はまず日本手話の起源などを語りながら、「シムコム」を人類が言語を獲得した起源としてとらえる。
 音声を当たり前のものと考えてしまえば、言語はまず音から始まり、文字化される。だが、ろう者を参考に思考する著者は、最初に身振り(指さし)があり、簡単な音が同時に発されただろうと言う。
 確かに集団で狩猟をする際には、どの獲物を追い込むかを指でさすのは自然だ。人類以外の動物はこの指さしを理解出来ない。猫に指さしをしても、先を嗅ぐだけである。
 身振りによって世界を分節した人類は、やがて壁画でイメージ言語を伝えあい、世界に散ってヒエログリフを編集し、単語を増やして音声が複雑化したと著者は推論する。
 人類史ゆえ証拠は少ない。だが、身振りと文字を、音声より前に置くというのは、まことに刺激的な論考である。
    ◇
 文理閣・2940円