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柔道部みんなで楽しんだ“バイブル” 柔道・高藤直寿さん(前編)

文:熊坂麻美、写真:佐々木孝憲

板垣恵介「グラップラー刃牙」(秋田書店、全42巻)

 子供の頃から漫画が大好き。『花マル伝』や『柔道部物語』などの柔道漫画、『ワンピース』や『ナルト』といった冒険漫画や格闘漫画など、たくさんの作品を読んできた。最近は全78巻をまとめ買いした『MAJOR』を「夜、子供が寝た後に」少しずつ楽しむのが日課だという。
 そんな高藤直寿さんが、絶対に外せないという作品が『グラップラー刃牙(バキ)』(作・板垣恵介)。その魅力について、開口一番、目を輝かせて言った。

 「バキは本当にヤバいっす」

 本作は、世界中からさまざまな格闘家たちが集う「地下闘技場」の最年少チャンピオン範馬刃牙(はんまバキ)と“地上最強の生物”と称される刃牙の父・勇次郎を軸にした、最強を目指す男たちの物語。空手、ボクシング、ブラジリアン柔術、やくざ、野生動物など、ジャンルを超えた“夢の対決”が大迫力で描かれ、勇次郎が随所で放つ奇想天外な名言も読み手の心を大きく揺さぶる。
 1991年に「週刊少年チャンピオン」で連載がスタートし、2部「バキ」、3部「範馬刃牙」と続き、4部「刃牙道」が今年の4月に完結。スピンオフ作品も合わせると、シリーズ発行部数は累計7500万部を超え、年内に5部がスタートすることも発表された。

 「僕は『バキ』のシリーズはほとんど読んでますけど、最初の『グラップラー刃牙』が一番好き。戦いの時の心理状態とか共感できるところがたくさんあるし、違うジャンルの一流ファイターたちが真剣勝負したらどうなるんだ!?っていうワクワク感もスゴイ。それに、勇次郎が強すぎて笑えるしツッコミどころも多くて、単純にめちゃくちゃ面白いんですよ! 格闘技をやっている人で『バキ』を読んでない人はいないはず。それくらい、名作です」

『グラップラー刃牙』42巻、P92-93 ©板垣恵介(秋田書店)1992
『グラップラー刃牙』42巻、P92-93 ©板垣恵介(秋田書店)1992

 いつから読み始めたかは記憶にない。けた外れの猛者たちが躍動する世界に、気づいたらのめりこんでいた。柔道の強豪校で寮生活をしていた中学・高校の頃は、部員揃って愛読していたという。
 「これ、ひょっとしたら自分にもできるんじゃないか……?」。そう思って、作中の描写をつい試してしまうのが「バキあるある」と、高藤さんが教えてくれた。

 「王道で言えば、自分でエンドルフィンが出せるかとか(※刃牙は耳をひねることで脳内麻薬のエンドルフィンを操作できる)、背筋を鍛えれば鬼の顔が浮き上がるかとか。いろいろ自分でもやったし、鬼の顔は高校の頃、柔道部の仲間と筋トレして試してみたけど『絶対、ムリ!』って(笑)。あり得ないと思いつつ、自分もこんな風になれるんじゃないかとどこかで期待してしまう。そういう、ちょっとバカバカしいアツい盛り上がり方ができるのも、バキならではなんですよね!」

 高藤さんのバキ愛は深い。「出てくるキャラはみんな好き」と言い切る。自身もオリンピックの頂を狙う柔道家。強さを追求するどのキャラクターにも、それぞれに感情移入できるのかもしれない。特に思い入れが強いのが、刃牙と異母兄弟のジャック・ハンマー。強くなることに異常なまでの執念を燃やし、限界量を超えるドーピングとすさまじいトレーニングを積んで、刃牙と死闘を繰り広げる。

 「ジャック・ハンマーは怖いくらいヤバい(笑)。やってること、めちゃくちゃで。だけど、そこまでやるほど強くなりたいっていう気持ちはよくわかるし、そこまでやっても勝てない勝負の非情さも身に染みて、すごい共感できるんですよね。たくさん練習した人が必ずしも勝つわけではないけど、勝利をストイックに目指す執念は、オリンピックで勝つためには絶対に必要だよなと、ジャック・ハンマーの姿に気づかされるんです」

>後編「次こそオリンピックで一番になる」はこちらから