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加藤治郎「うたびとの日々」書評 変わらぬ日常とは何と尊いのか

評者: 朝日新聞読書面 / 朝⽇新聞掲載:2012年07月15日
うたびとの日々 著者:加藤 治郎 出版社:書肆侃侃房 ジャンル:小説・文学

ISBN: 9784863850828
発売⽇:
サイズ: 19cm/205p

うたびとの日々 [著]加藤治郎

 ありふれた日常の風景が、平易な表現で淡々とつづられる。それなのに、読み進めていくと、不意に心をわしづかみにされることがある。歌人ならではの鋭さで、場面を選び言葉で切り取ったからだろう。本書に収録されているのは、新聞や雑誌に寄稿したそんなエッセーの数々だ。
 会社勤めの失敗談や若き日の思い出に加えて、短歌論や歌人らとの交流、社会批評まで、間口は広い。言葉の遊びとは無縁の骨太な主張からにじむのは「実生活を生き抜くことで、生を濃密なものにしていけばよい」という著者の思いだ。その見つめる先をともにたどっていくと、変わらぬ日常とは何と尊いものだろうと、改めて思わずにはいられない。
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書肆侃侃房・1575円