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再現不可能な貧乏と友情と冒険 津村記久子さんが小4で出会った映画「グーニーズ」

© 2010 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

 「のび太の魔界大冒険」と迷ったけれども、二十歳までにいちばん好きだった映画は、やっぱり「グーニーズ」だ。というか本当は今もそうかもしれない。テレビで観た「グーニーズ」を、なんとしてももう一度見たくて母親にビデオデッキをねだったけれども、離婚した直後だったので無駄な出費はできず、親戚が古いものを譲ってくれた。レンタルビデオを借りてきてデッキに入れたあの時の喜びは、今も忘れられない。

 今考えても完璧な映画だと思う。海沿いの貧しい町の子供であるぜんそくのマイキーを主人公に、その遊び仲間たち――すかしてるけどもボロボロの家庭で育ったマウス、チビで中国系で発明好きのデータ、そしてみんなからバカにされている太っちょのチャンクと怪人スロースの友情が、物語の鍵を握る。子供の集団と貧乏と幽霊船と海賊の財宝を取り扱った話などという、着手したくても出来過ぎていて、いや、やめときます、としり込みしてしまうような代物を、『グーニーズ』は奇跡的なバランスとテンポでまとめあげてみせた。絵空事ではあるんだけれども、しかし絶対に絶対に不可能な物語ではない、というところにも、小四の私はぐっときていた。あまりにハリウッド的な、量産できる映画のようでいながら、きっとこんなものはもう二度と現れないと三十数年後にようやく思いかけている。「2」の企画がくすぶったまま、いまだ作られないのも理解できる。

 ノベライゼーションも良かった。マイキーの一人称で語られる、ぜんそくと貧乏と海賊をめぐる冒険の物語は、すれていながらも明るくて活き活きした世界観を伴っていて、その後のわたしに多大な影響を与えた。貧乏はいけてるとさえ思ったのだった。お金がなくても気のおけない友達がいたらそれで幸せなんじゃないかと。幸せというか、貧乏と友情の両立はかっこいいことだとすら思ったのだった。幼稚園の年長さん以来でわたしが再び小説を書き始めたのは、『若草物語』と<マガーク少年探偵団>シリーズと『グーニーズ』のノベライゼーションのおかげだ。読んでいれば必ずやってくるこれらの物語の終わりを、なんとか自力で引き延ばすためだ。

 そういうわけで『グーニーズ』は、今もわたしにとっての満漢全席であり、フランス料理のフルコースなのだろう。どっちも食べたこともないけれども。いや、夏休みの昼間を埋め尽くすポテトチップとアイスクリームとコーラかも。シンディ・ローパーの主題歌も、永遠に揺るぎなく最高。