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片岡義男「木曜日を左に曲がる」書評 翻訳家の内部に小説の芽が兆す

評者: 朝日新聞読書面 / 朝⽇新聞掲載:2011年07月10日
木曜日を左に曲がる 短編小説集 著者:片岡 義男 出版社:左右社 ジャンル:小説・文学

ISBN: 9784903500546
発売⽇:
サイズ: 20cm/237p

木曜日を左に曲がる [著]片岡義男

 すべて書き下ろしの短編7編を収める。第1編のタイトル「アイス・キャンディに西瓜(すいか)そしてココア」からして片岡義男的世界全開だ。写真家でモデルも務められるほどの容姿を持つ中田佐知子は母の死後、郷里の小さな食堂を引き継ぐが、閉じることになり、大学の同期生の写真家河本浩平が写真を撮りに訪れる。各編通じて明晰(めいせき)な会話、曇りのない展開。写真家がある瞬間、シャッターを切るように、物語が瞬時に動く。表題作では、翻訳家の内部に小説の芽が兆す様子が「自分の言葉を自分の内部から発生してくるもののために使う」と語られる。現実を想像力に取り込むのに「触覚」を通して、というのも独特なところ。(左右社・2310円)