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吉行和子「ひとり語り 女優というものは」書評 自分にふさわしい何かに出会う

評者: 江上剛 / 朝⽇新聞掲載:2010年05月30日
ひとり語り 女優というものは 著者:吉行 和子 出版社:文藝春秋 ジャンル:エッセイ・自伝・ノンフィクション

ISBN: 9784163725604
発売⽇:
サイズ: 20cm/251p

ひとり語り 女優というものは [著]吉行和子

 吉行和子って芸術一家のエリートだと思っていた。父は作家、母は有名美容師、兄と妹は芥川賞作家。これだけ並ぶと誰だってそう思うだろう。
 しかし、まったくそうではない。父の記憶なし、母は再婚、兄は家に寄りつかず、妹は引きこもり、従って一家団欒(だんらん)の経験なし。ドラマで家長の役を演じた際、家族を前に「いただきます」。なんとこれが初体験。なんだか悲しくて笑える。
 喘息(ぜんそく)で学校にまともに行くことができず、将来の夢もない時、芝居を見て「こんな世界があったのだ!」とフィクションの世界の自由さにあこがれて飛び込んだ。自分にふさわしい何かに出会えれば、こんなにも頑張れるんだと勇気づけられる。
 兄、吉行淳之介が、バラエティーに出演している著者を見て楽しそうに電話をかけてきた。著者は、そんな兄のためにもっとバラエティーに出ようと思う。いたわりあう良い兄妹だなとうらやましい。
 バブル紳士にだまされ借金地獄に。銀行にいじめられる。元銀行員の私は申し訳ない思いがして、頭を下げた。いい話を聞かせてもらったなとうれしくなる一冊。
 江上剛(作家)
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 文芸春秋・1500円