「９・１１の標的をつくった男」書評 たぐいまれな成功と代償と
評者： 辻篤子
／ 朝⽇新聞掲載：2010年10月17日
９・１１の標的をつくった男 天才と差別−建築家ミノル・ヤマサキの生涯
著者：飯塚 真紀子
出版社：講談社
ジャンル：技術・工学・農学
ISBN: 9784062134118
発売⽇：
サイズ: ２０ｃｍ／３６４ｐ
９・１１の標的をつくった男 天才と差別—建築家ミノル・ヤマサキの生涯 ［著］飯塚真紀子
テロで破壊されたニューヨークの世界貿易センター（ＷＴＣ）ビルを設計した日系２世の建築家、ミノル・ヤマサキの知られざる生涯を丹念にたどった力作である。
米シアトルのスラム街に生まれ、叔父の影響で建築を志した。日系というだけで就職できなかったり、高級住宅地の住宅購入を拒まれたりしつつ、着実にキャリアを重ねていった。
彼はなぜ、「ピラミッド以来最大の建築」ともいわれたＷＴＣの設計者に選ばれたのか。その建築が感じさせる人間味や、人当たりのよさも評価されたようだが、経験は少なく、尋常ではない選択だった。著名な建築家ではないアウトサイダーであり、またマイノリティーという要素が、世界貿易というビルの性格から、求められたらしい。
しかし、反発は強かった。
未知の才能に賭ける度量と、狭量と。標的となったのは、そんな米国だった。
たぐいまれな成功と、代償の物語でもある。激務によって害した健康もその一つだ。１９８６年に７３歳で死去。１５年後を知らずにすんだことは幸いだったかもしれない。
辻篤子（本社論説委員）
＊
講談社・１９９５円
