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まず知る ともに生きるために

刑務所しか居場所がない人たち 学校では教えてくれない、障害と犯罪の話 著者:山本 譲司 出版社:大月書店 ジャンル:知る・学ぶ

価格:1620円
ISBN: 9784272330935
発売⽇: 2018/05/17
サイズ: 19cm/165p

刑務所は、世間から排除され続けた障害者が最後に行きつく「福祉施設」だった−。触法障害者や出所者の支援に奔走する著者が、福祉と司法のすきまに落ちる人々の実態を鋭く、優しく説…

評者:野矢茂樹 / 朝⽇新聞掲載:2018年06月30日

刑務所しか居場所がない人たち 学校では教えてくれない、障害と犯罪の話 [著]山本譲司

 知らなかったなあ。そうなんだ……。
 一つのエピソードを紹介しよう。その人には中度の知的障害があった。あるとき、ひとの車の窓が開いていて、三十円が見えたので取ってしまった。持ち主が戻ってきてどなりつけたけれど、その人は逃げもせずにニコニコしている。通報され、再犯だったので三年間の懲役となった。
 だけど、この人には悪意のかけらもない。行くべきは刑務所ではなくて、しかるべき福祉施設だろう。でも、刑務所にはそういう人が大勢いる。
 受刑者は作業をしなければならないけれど、知的障害、精神障害、認知症などで作業できない人たちは刑務所の中でも別の場所に集められる。刑務官はそんな受刑者たちを処罰するのではなく、むしろ保護し守ろうとしているという。刑務所が福祉施設化している、と山本さんは言う。
 まもなく満期出所となる人が、山本さんにこう話した。「俺たち障害者は生まれたときから罰を受けているようなもんだ。だから、罰を受ける場所はどこだっていいや。また刑務所の中ですごしてもいい」。彼らはむしろずっと被害者として生きてきたのだ。だからこんなつらい一言が口をつく。「俺ね、これまで生きてきたなかで、ここがいちばん暮らしやすかった」
 福祉が行き届かないために刑務所に追いやられ、刑期を終えて社会に出ても何の手当てもされないため、空腹に耐えかねて万引きをしたり、食い逃げしたりする。ヤクザに使われることもある。そうしてまた、刑務所に戻ってしまう。
 社会の中に、彼らの居場所を確保しなければいけない。隔離するのではなく、ともに生きる態勢を整えなければいけない。どのページからも山本さんの真摯な声が聞こえてくる。簡単には解決しない問題だろう。これは福祉の問題であると同時に、私たちの問題なのだ。だからこそ、まず知ることから始めねば。
    ◇
 やまもと・じょうじ 1962年生まれ。元衆議院議員。秘書給与詐取で実刑。『獄窓記』(新潮ドキュメント賞)など。