欧州の歴史問題というと、負の歴史に向き合う現在のドイツの姿が思い浮かぶ。飯田芳弘著『忘却する戦後ヨーロッパ 内戦と独裁の過去を前に』(東京大学出版会・4968円)という書名に、違和感を覚える向きもあるかもしれない。
しかし、戦後史を長い時間軸でみると、「記憶するヨーロッパ」と並んで「忘却するヨーロッパ」の事例が目に付く。
忌まわしい過去をただすことは、時として憎悪や対立をあおり、報復の連鎖を生みかねない。1950年代の西ドイツは、社会統合を優先して恩赦や戦犯の釈放を進めた。70年代にフランコ独裁体制が崩壊したスペインでは、諸勢力の合意で民主化推進のために独裁体制の過去の行為を不問に付した。89年に共産主義政権が倒れた東欧諸国でも、過去との闘いにおける「忘却の政治」が見受けられる。
どのような場合に、どのように過去は忘却されるのか。その政治過程に著者は切り込む。記憶と忘却の複雑な連鎖に新たな光を当てる著作である。(三浦俊章)=朝日新聞2018年6月30日掲載
編集部一押し!
- 著者に会いたい 奈良敏行さん「町の本屋という物語 定有堂書店の43年」インタビュー 「聖地」の息吹はいまも 朝日新聞読書面
-
- インタビュー 鈴木純さんの写真絵本「シロツメクサはともだち」 あなたにはどう見える?身近な植物、五感を使って目を向けてみて 加治佐志津
-
- インタビュー 「尾上右近 華麗なる花道」インタビュー カレーと歌舞伎、懐が深いところが似ている 中村さやか
- 中江有里の「開け!本の扉。ときどき野球も」 生きるために、変化を恐れない。迷いが消えた福岡伸一「生物と無生物のあいだ」 中江有里の「開け!野球の扉」 #13 中江有里
- コラム 三浦しをんさんエッセー集「しんがりで寝ています」 可笑しくも愛しい「日常」伝える 好書好日編集部
- 小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。 【特別版】芥川賞・九段理江さん「芥川賞を獲るコツ、わかりました」 小説家になりたい人が、芥川賞作家になった人に聞いてみた。 清繭子
- インタビュー 新井紀子さん×山本康一さん対談(後編) 辞書は民主主義のよりどころ PR by 三省堂
- インタビュー 新井紀子さん×山本康一さん対談(前編) 「AI時代」の辞書の役割とは PR by 三省堂
- インタビュー 村山由佳さん「二人キリ」インタビュー 性愛の極北に至ったはみ出し者の純粋さに向き合う PR by 集英社
- 朝日ブックアカデミー 専門外の本を読もう 鈴木哲也・京大学術出版会編集長が語る「学術書の読み方」 PR by 京都大学学術出版会
- 朝日ブックアカデミー 獣医師の仕事に胸が熱く 藤岡陽子さんが語る執筆の舞台裏 「リラの花咲くけものみち」刊行記念トークイベント PR by 光文社
- 朝日ブックアカデミー 内なる読者を大切に 月村了衛さんが語る「作家とはなにか」 「半暮刻」刊行記念トークイベント PR by 双葉社