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日米地位協定と沖縄 損なわれた主権守るのは誰か

今年1月、米軍ヘリが沖縄県うるま市の伊計島に「不時着」し、別の米軍ヘリに撤去された

 沖縄県名護市で今月21日、農作業小屋のガラスが割れ、銃弾のようなものが見つかった。実弾訓練をする米軍のキャンプ・シュワブに近い場所だ。11日には、那覇市沖に米軍戦闘機が墜落した。昨年12月には、宜野湾市の小学校の校庭に米軍ヘリコプターの窓が落下している。
 これらの原因究明の壁となるのは、日米地位協定だ。日本に置かれた米軍基地の在り方や、米軍の法的地位を定める協定だが、そこから浮かびあがるのは、米国に自国の主権を放擲(ほうてき)したかのような日本の地位だ。

どこにでも基地

 米国が各国と結ぶ地位協定を比較した『主権なき平和国家』は、日本の「主権が大きく損なわれている」現実を抉(えぐ)りだす。日米地位協定第2条は、米国に対し、日本の「どこにでも」基地の提供を求める「権利」を認めている(全土基地方式)。だが韓国を除けば、主要国で同様の権利を認めている国はない。
 米軍基地は日本のどこにでも置けるのに、沖縄に集中しており、本土との間に「著しく不平等な基地提供の実態」が存在する、と沖縄県は批判してきた。
 これに呼応する本土側の民意が、ようやく現れた。基地引き取り論には、普天間基地の代替施設を“わが街”に引き取る覚悟を示すものもある。しかし、『沖縄発 新しい提案』は異なる。代替施設の建設中止と普天間基地の運用停止を前提に、沖縄以外の全自治体を等しく候補地とし、代替施設が必要となっても、一地域への押し付けとならない決定への行程案を示す。
 燃料や有害物質が漏出した基地の環境調査。犯罪の被疑者の米兵らが基地へ逃げ込んだ場合の捜査。事故軍用機に対する原因究明。これらには、いずれも警察や自治体による基地への立ち入りが不可欠となる。
 だが、この「主権」国家では基地の「排他的使用権」(第3条)という壁が立ちはだかっている。琉球新報が外務省の機密文書をスクープした『日米地位協定の考え方・増補版』によれば、その権利は米側の意に沿わない部外者の立ち入りを拒み、基地の本質的要素をなす。

うまく立ち回れ

 ドイツでは、連邦・州・自治体当局は、原則として事前通告をすれば基地に立ち入れる。通行証が支給されている市職員らは「事前申し込みなし」で立ち入れる。イタリアでは、基地はすべて伊軍司令官の統括権下にあり、同司令官は「主権の擁護者」として基地内の全ての施設・区域に立ち入れる。
 独伊米3国は、北大西洋条約機構(NATO)の枠組みで相互性を有するからだ、という見方もある。そうだとしても、米国が日本を必要としていることをうまく利用して立ち回るべきだ、という元伊首相の助言は傾聴に値する(沖縄県「他国地位協定調査 中間報告書」2018年3月)。
 これまで沖縄県が最も強く訴えてきたことの一つは、米兵等の犯罪被疑者の身柄を、公訴前に確実に日本側に引き渡すことだ(第17条5(c)の改定)。その背景を知るために、「基地・軍隊を許さない行動する女たちの会」がまとめた冊子「沖縄・米兵による女性への性犯罪」(事務局=すぺーす結)を紹介したい。1945年4月に米軍が沖縄本島に上陸して以来の、米兵等の性犯罪の発生年月日、事項、処罰方法などが記されている。それらの犯罪によって蹂躙(じゅうりん)された生命や健康、平穏な暮らしを、一つ一つ刻み込んでいく行為は、記録というより、悼みということばこそ相応(ふさわ)しい。
 以上は、日米地位協定をめぐる問題の氷山の一角だ。協定の抜本改定を求める沖縄などの声に対し、私たちはどうこたえ、行動するのか。問われているのは、政府の対応以上にこの国のデモクラシーそのものである。=朝日新聞2018年6月30日掲載