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真っ白になってつづる詩 詩人・吉増剛造さん@那覇市立真嘉比小学校

詩の朗読を聞く吉増剛造さん

 授業を受けたのは3年1組の児童28人。担任の大村純子教諭が板書した授業の目標を元気に読み上げた。「言葉の面白さを見つけよう!」「新しい言葉をつくってみよう!」
 子どもたちは事前に、「最近、感動したこと」というテーマで作文を書いて提出。吉増さんはすべてに目を通し、一人ひとりの作文に、詩へと育ちそうな「ことばの種」を見つけてマルを付けてきた。
 儀間央(あきら)さんの作文は、モンシロチョウを「モンシ」と言い換えたところにマル。吉増さんが「あだ名みたいだし、ちょっとふざけたみたい。そこがいい。一度聞いたら忘れないでしょ」と話すと、児童からは「新しい言葉だ」と声があがった。
 今度は平田美音(みおん)さんがプール開きについて書いた作文に目を留めた吉増さん。即興で詩に仕立て直して、黒板にすらすらと書き始めた。

さむかった/ざわざわしてた/プール/くらげうき/けのび/さむかったプール/ざわざわしてた

 「僕の手が動きだして書いちゃった。詩にしたくなる気持ちは、人を好きになる感じと似ている。動きだしちゃうんだ」
 続いて、教室の大きなモニターに、吉増さんの持参した原稿が映し出された。「すげっ」「なんじゃこりゃ」と歓声が上がる。手書きのケイ線に沿って米粒のような文字がびっしり。その上に赤や青のインクがたらされ、まるで絵画のようだ。
 2011年5月、東日本大震災の爪痕深い被災地を訪れた吉増さん。その後、紙にケイ線を引き、極小文字で詩を書いたり、敬愛する吉本隆明の詩を書き写したりしてきた。この日見せたのは、その一枚だった。
 吉増さんは教室を見渡して「自分の作文を5行くらいの詩にしてみよう。大変だよ」。目の前に配られた白い紙を前に困り顔の子どもたち。すると、吉増さんは手を上下に動かし、宙に線を引いてみせた。
 「ポイントは線を引くこと。真っ白になったアタマに刻み目を付けるように、紙に線を引いてごらん。木が立つように。空と海を分けて世界をつくるように。するとほら、そのわきに何か書けそうじゃない?」
 すぐに「書けた」とえんぴつを置く子がいれば、線を引くことにたっぷり時間をかける子も。吉増さんは机を回って声をかけ、悩む子とは一緒に言葉を考えた。「みんな違うからまだ真っ白な子がいていいんだ。書き終えた子は、待ってあげて」
 30分後、児童たちが書き上げた詩の原稿を手にした吉増さんは「みんなの作文は心の動きがいきいきしていました。それを詩にするのは易しいようで大変。一度アタマが真っ白にならないと本当のことは出てこないんだ。これは覚えておいてよ」。
 吉増さんに促され、賀数(かかず)はなさんがはにかみながら自作を朗読した。

 プールだプールだ/ざっぶん/ざっぶん/つめたっ……泳げるか/ドキドキ/ブクブク/パッ/やったー/およげた

 吉増さんは「『つめたっ』と、口ごもるところが好きだなぁ」とにっこり。そして、「パッ」を「つめたっ」に置き換えることを提案した。「詩はくり返しが大事。一度読んでアタマに残っている言葉に、もう一回出会えたら楽しいじゃない」
 続いて、喜舎場友翔(きしゃばゆうと)さんは弾むような声で朗読した。

みによんく/みによんく/みによんく/わくわく/わくわく/ごはん/たべてない/へいき

 すると吉増さん、同じ詩を玉城ハヴィエルレオさんに「読んでみて」。丁寧な朗読を聞き終えると、口調が熱を帯びた。「ほら、詩が可憐(かれん)になった。読む人によって変わるでしょ。これが言葉の面白さ。言葉は意味だけじゃない。あなたにはあなたの調子、トーンがあるの。間違いを恐れることはないよ。言葉の楽しみは無尽蔵にあるんだから」(上原佳久)

    ◇ 
 よします・ごうぞう 1939年生まれ。詩人。近著に『火ノ刺繡』(響文社)など。8月11日から東京・渋谷の松濤美術館で「詩人吉増剛造展」を開催予定。

子どもたちがお礼のお手紙

 オーサー・ビジットは、全国の小中学校や高校からの応募を受けて、本の著者が学校を訪ねる事業ですが、今回は特別編。吉増さんの個展を開催していた沖縄県立博物館・美術館の協力で、那覇市内の小学校での特別授業が実現しました。授業後、子どもたちから「ごうぞう先生」あてにお礼の手紙が届きました。「79才全ぜん見えない/スカーフ/ネクタイ/オシャレだオシャレだ(中略)楽しい思いで作ったよ」(賀数はなさん)という詩もありました。(読書推進事務局長・赤田康和)=朝日新聞2018年6月30日掲載