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To The Beer Bar~ちょいのみ親父の探訪記~ 第5回 千駄木(東京)

文・イラスト:藤原ヒロユキ
文・イラスト:藤原ヒロユキ

ビアパブイシイ

 谷根千と書いて「やねせん」と読ませる。谷中・根津・千駄木地区をあらわす総称だ。東京のJR山手線の内側の北東部に位置する。

 この一角は、太平洋戦争での被害が比較的少なく、戦後も開発の手があまり入らなかった。古い町並みが残されていて、下町情緒を求める観光客が国内外から多く訪れる。

 谷根千へは地下鉄の根津駅や千駄木駅からも行けるが、表玄関はやはり日暮里駅だ。JR日暮里駅から、西に向かうと「夕やけだんだん」と呼ばれる広い階段があり、下りきると谷中銀座商店街が始まる。コロッケやメンチカツ、海鮮串、ソフトクリームなどをテイクアウトできる店、お土産屋、蕎麦屋や焼き鳥屋など約70店舗が全長170mの間に並んだ観光スポットだ。

 そんな谷中銀座が終わり、突き当たりのT字路から左右に続くのが「よみせ通り」である。この界隈から、観光地の匂いが薄れ始め、生活圏の香りが漂い出す。本物の下町情緒だ。「ビアパブイシイ」は、そんな「よみせ通り」にある。

 「ビアパブイシイ」は以前、台東区谷中3丁目にあったが、ビルの建て替えで移転し、今は文京区千駄木3丁目にある。区が変わっているのでずいぶんと離れた場所に移転したのかと思う人もいるだろうが、その距離は100mと離れていない。なぜならば、よみせ通りの東側は台東区で西側は文京区だからである。以前は東側だったが西側になったのだ。よみせ通りでは、向かいあった店が違った区になる。

 この辺りは区の境が入り組んでいる。先ほどの夕やけだんだんは荒川区、谷中銀座は入ってしばらくは左が台東区で右が荒川区、真ん中あたりから先は両側が台東区になる。よみせ通りの西側は文京区だし、田端方面に行けばすぐに北区となり、さらに進めば足立区で、西に進めばすぐに豊島区だ。

 「ビアパブイシイ」のカウンターでビールを飲みながら『なんだこりゃ? 知って驚く東京「境界線」の謎』という本を読んでいると、東京という町がどのように発展し、区がどのように区分されていったのかがわかる。とても興味深い。

 「ビアパブイシイ」は、1階がスタンディングのカウンター。螺旋階段を上った2階には着席出来るカウンターとテーブル席がある。

 ビールは国産クラフトビールの生樽が4種類。店のキャパシティーからして4タップはちょうどいい感じだ。種類をいたずらに増やしても樽の回転が悪く、ビールの鮮度が保てない。

 メニューには、提供されている4種類の他に〝開栓待ち″の銘柄が記されている。今、タップに繋がっている樽が飲み干されたら、次にどの銘柄の樽を繋ぐかというものだ。
 近所に住んでいる常連客が「次、いつごろ撃ち抜かれそう?」なんて訊いている。撃ち抜くというのは、樽が空になることである。

 「このペースだと1時間ぐらいかなぁ」「じゃ、ひとっ風呂浴びてまた来るわ」「確約できないよぉ」「いいよ。そん時は俺が撃ち抜くから(笑)」

 下町らしい会話が弾む地域密着型のクラフトビアパブ。文字通りパブリックハウスだ。

 千駄木の「ビアパブイシイ」。
 本当に、いい店だ。また訪れたくなる。