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吃音、音痴…思春期の少女を自分に重ねて 南沙良さん、蒔田彩珠さん「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」で主演

文:永井美帆、写真:斉藤順子

 主人公は、吃音(きつおん)に悩む高校1年生の志乃。そして、ギターが生きがいなのに音痴な同級生の加代。2人の間で交わされる、繊細でヒリヒリした思春期独特の感情を描いた押見修造のコミック「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」が映画化された。原作者の実体験をもとにした青春物語だ。

©押見修造/太田出版 ©2017「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」製作委員会
©押見修造/太田出版 ©2017「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」製作委員会

 志乃を演じたのは、ティーン誌「nicola」の専属モデルから昨年女優デビューした南沙良さん(16)。加代役は7歳から子役として活躍し、「万引き家族」をはじめ、話題作に相次いで出演している蒔田彩珠(あじゅ)さん(15)。同学年の2人が組んだ。

 南さんは小学生の頃から押見作品のファン。「押見先生の作品は妙に生々しくて、自分のすぐ近くで起こっている出来事みたいなんです。志乃と私はよく似ていて、自分を表現するのが苦手なところや、嫌なことからすぐ逃げてしまうところが重なりました」。主演が決まった日は、興奮のあまり寝られなかったと言う。

 蒔田さんもオーディション前に原作を読み、加代と自分に共通点を感じた。「私も初対面の人とうまく話せないタイプだから。加代と志乃が初めて会話を交わす場面は印象に残っています。あと、音楽を聴いたり、歌ったりすることが好きなところも同じです」。大切なシーンの撮影前には何度も読み返し、原作の世界観を大切にしたと話す。

 一昨年冬のオーディションで初めて顔を合わせたという2人に、お互いの印象を尋ねてみた。南さんは蒔田さんについて「すごくしっかりしていて、自分の意見をはっきりと話すので、すごいなって」。一方、蒔田さんは南さんについて「沙良ちゃん、風邪をひいていたんだよね。でも、押見先生の漫画の話になるとテンションが上がって、鼻声で一気に話し出したのがすごく面白かったです」と笑う。自分の言葉を探しながらゆっくり話す南さんと、ハツラツとして、まっすぐな瞳が印象的な蒔田さんに、映画の中の志乃と加代が重なる。

 志乃は入学式の日の自己紹介で自分の名前がうまく言えず、クラスの笑い者になってしまう。ひょんなことから志乃の歌声を聞いた加代は、一緒にバンドを組もうと誘い、2人は「しのかよ」を結成。文化祭に向けて特訓の日々が始まる。誰もが抱いた青春期の葛藤がリアルに描かれ、舞台となる1990年代の音楽と港町の風景が作品を彩る。

 撮影は昨年4月に行われた。劇中で志乃と加代が仲良くなっていったように、撮影中に2人の距離も縮まっていった。防波堤での女子トークの場面は「お菓子を食べながら、ずっとおしゃべりをしていて、本当に2人で遊んでいた感じだったよね」と蒔田さん。「あんなに自然のある場所に行ったこと自体初めてで、撮影中はずっと楽しかった」と南さんも続ける。撮影当時中学3年生だった2人は今春高校に入学。私生活でも一緒に映画を見に行ったり、誕生日にメッセージを送ったり、「しのかよ」の関係が続いている。

 吃音で、特に母音からの発音が苦手という志乃の設定は、原作者・押見の実体験をもとにしている。一方で、ただの吃音漫画ではなく、「誰にでも当てはまる物語になれば」という押見の思いから、あえて「吃音」や「どもり」という言葉は使われていない。

 南さんは志乃を演じるにあたって、実際に吃音に悩む人に話を聞いたという。「信頼できる人の前では緊張がほぐれ、話しやすくなるそうなんです。だから、加代ちゃんと仲良くなるにつれ、志乃の言葉が少しずつスムーズに出るように意識して演じました」。そんな志乃の言葉を、「最後までちゃんと聞くようにって(湯浅弘章)監督から言われていました」と蒔田さん。「自分もコンプレックスを抱える加代だからこそ、志乃の苦しさを理解してあげられたんだと思います」

 映画では加代がギターを弾き、志乃が歌う場面がたびたび出てくる。蒔田さんは撮影の4カ月前からギターの練習を始め、劇中で演奏する4曲をマスターした。「撮影の休憩時間もずっとギターを練習していました。私がギターを弾くと、隣で沙良ちゃんが歌い出すんです」と笑う蒔田さん。南さんも「人前で歌うことが初めてだったので、たくさん練習しました。駅前で歌う場面は緊張したよね。よく聞くと声が震えているんじゃないかな」

 撮影をきっかけに始めたギターは、今では趣味になったと蒔田さん。「すっかりはまって、家でも大好きなRADWINPSの曲を弾いています」。ギターだけでなく、本を読んで過ごすことも多いという。「一番好きなのは島本理生さんの『ナラタージュ』。その年齢でしかできない恋愛っていうのがすてきですよね」

 南さんも漫画、小説、詩集とジャンルを問わず、様々な本に手を伸ばす。「押見先生の作品だと『ぼくは麻理のなか』とか、連載中の『ハピネス』も読んでいます。最近は詩集が好きで、今は小林健二さんの『みづいろ』を読み返しています。言葉の響きがすごく良いんです」

 2人のおしゃべりは続く。「本を読むと、登場人物の気持ちとか背景を想像するよね」「それって演技をすることと似ているなって思います」