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半藤一利「歴史と戦争」 激動の時代と呼応する構成

 「物ごころついたときから、すでに『非常時』のなかにいたような気がしている」と語る昭和五年生まれの著者が、幕末から戦後に至るまで、「戦争」と接してきた歴史を時系列に並べ、時に体感的に述べ連ねていく。
 本書は、これまで記してきた八〇冊以上の著書から「半藤日本史のエッセンス」を抽出した一冊で、ひとつの引用は数行から二頁(ページ)程度。点と点を線にして歴史を記してきた著者の論旨を、わざわざ点に差し戻す違和感は終始拭えない。引用が「つまり時代の風とはそういうものかもしれない」と始まれば、その副詞や連体詞が指すところに遡(さかのぼ)れないのがもどかしい。
 しかし、膨大なテキストから旨味(うまみ)だけを抽出した構成は巧み。時事問題でも歴史問題でも、重厚な解説を回避して端的な結論を欲する昨今において、Twitterでいうところの数ツイート分の文章量で歴史的事象を説明していくテンポの良さ。
 戦争を体感した世代の半藤は、「コチコチの愛国者ほど国を害する者、ダメにする者はいない」と断言。「準戦時状態」の時に、「新聞社はすべて沈黙を余儀なくされた」と七〇年史に記した朝日新聞を「沈黙を余儀なくされたのではなく、商売のために軍部と一緒になって走ったんですよ」と窘(たしな)めるのも忘れない。
 「『大本営発表』はウソの代名詞」「戦争とは人が無残に虐殺されること」「世論が想定外といえるほど大きな勢いをもってくると、こんどはジャーナリズムそのものが世論によって引き回されるようになる」と、今改めて持つべき視座を教示する。その合間に、戦後すぐに銀座四丁目交差点で見かけた、「生命売ります」との看板をかける、とことん窮した男の話などを挟む。
 こうして編み直された自分の言葉を客観視する「あとがき」で、「そんな日本をもう一度つくってはいけない」と念を押す。サビだけをメドレーで聞かされるような構成だが、結果的にこのスピード感が、激動の近代史とシンクロしている。
     ◇
 幻冬舎新書・842円=7刷8万5千部。3月刊行。担当編集者によると、戦争と自分自身の関わりをつづる読者はがきが多く届くという。5月には『歴史と人生』も刊行された。=朝日新聞2018年7月7日掲載