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吉岡里帆さんインタビュー 「健康で文化的な最低限度の生活」原作読み込み演じた

文:加藤千絵、写真:斉藤順子

 撮影の時に、漫画を持ってもらってもいいですか?とお願いすると、「漫画持ちたいです! おもしろいから漫画も読んでほしい!」。とびきりの笑顔で応じてくれたのは、話題のドラマに次々と出演している人気女優の吉岡里帆さん。手にした漫画と同名のドラマ「健康で文化的な最低限度の生活」(カンテレ・フジテレビ系、7月17日スタート)に主演する。

 原作は生活保護を必要とする人を支援する公務員「ケースワーカー」の奮闘を描いた、柏木ハルコさんの人気コミック。離婚した夫のDVが原因で心を病み、就労できない女性、事業に失敗して借金を抱え、日々の食事もままならない男性、生活保護を受給している家庭で音楽活動に夢中な高校生……。さまざまな事情を抱える人と向き合い、戸惑いながらも、それぞれの人生に寄り添っていく新人ケースワーカー・義経えみるを吉岡さんが演じる。

 「最初はすごく不安だったんです。原作の漫画やこのドラマに出てくるケースワーカーさんたちの熱量が高い一方で、実際のケースワーカーさんたちは淡々とお仕事をされていたらどうしようって。そうすると、現実として起きていることとドラマがかけ離れて、説得力がなくなってしまうから」。しかし、そんな不安は実際にケースワーカーに会って、話を聞くと消し飛んだ。

 「現役のケースワーカーさんたちの熱量って本当にすごくて、漫画を超えるほどの芯と思いやりがあるんです。生活保護受給者の方の人生を請け負っているので、家に帰ってからもずっとその人のことを考えたりもしていて。自分が実際にケースワーカーさんにお会いしたり、制度について勉強したりしてから改めて原作を読むと、柏木先生や作品に携わっているみなさんの取材量に感銘を受けました。生々しい話の中にも人とのつながりから生まれる温かさや、大事な感情がしっかり抽出されていて、すごい作品だと思いました」。ドラマでも大事なメッセージを自信をもって伝えられると思います!と胸を張る。

ドラマ「健康で文化的な最低限度の生活」より
ドラマ「健康で文化的な最低限度の生活」より

 原作がある作品を演じる時は、「原作のファンがどういうところが好きなのか、一人のお客さんとして知りたい」と必ず読んでから臨む。本好きの母親の影響で、もともと読書は大好き。「1冊の本を作るのにすべてをかけるから、本にはその人の終着点が見える、って親にはずっと言われてきました。自分の1回きりの人生では味わえないこと、いろいろな人たちの様々な人生を本は見させてくれる、って」

 地元の京都にいた頃は、通学電車の中や、お気に入りのブックカフェ「Cafe Bibliotic Hello!」で夢中になって小説のページをめくっていた。そんな吉岡さんが最近、新たに気づいたのが「詩の魅力」だと話す。

 「自分がやっているラジオ番組にゲストで来てくださった最果タヒさんの詩を読んだときに、新しい風が吹いている!ってすごく思ったんです。はじめは内容が分からなくて、でも分かろうとすると分かってくるような気がするし、分からなくてもいいっていう感じがしたんですよね」。お気に入りとして挙げてくれた本は『千年後の百人一首』(2017年、リトルモア刊)。百人一首の恋や愛や憎悪を、最果さんが現代風に解釈した詩にして、その一つひとつにアーティストの清川あさみさんがつくった刺繡作品が添えられた1冊だ。

 そしてもう一つ、「人生を変えた本」として紹介してくれたのは唐十郎さんの戯曲『吸血姫(きゅうけつき)』。京都の小劇場で初めて舞台に立った時の作品で、「最初は意味が分からなすぎて、最果さんの詩と同じく“分からないシリーズ”なんですけど(笑)。とてもせまくて、共感できる人は少ないかもしれないけど理解者がいるあの作品の世界が好きなんです」と笑う。

 劇団の仲間が次々と就職していく中で、芝居を続けたくて上京した吉岡さん。そのまっすぐな気持ちは今も、途切れていない。「京都の頃も、今たくさんの人と作り上げるこのドラマの現場も大好きで。日々好きなものが増えていくのを感じながら、仕事と向き合っています」