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新書ピックアップ(朝日新聞2018年7月14日掲載)

『医療経済の噓』

 本のカバーには「病人は病院で作られる」と副題のような言葉が添えられている。一橋大経済学部を卒業後、宮崎医科大に入り直して医師になった著者は、財政破綻(はたん)により市立総合病院が閉鎖されて診療所になった北海道夕張市に医師として赴任。そこで、予防医療に力を入れて高齢者の医療費を減らす取り組みを目の当たりにし、「生活を支える医療」の重要性を知る。その経験をもとに、夕張や全国のデータを分析しつつ、日本の医療の問題を考える。
★森田洋之著 ポプラ新書・864円

『翻訳ってなんだろう?』 

 数々の小説を翻訳してきた著者が、『赤毛のアン』や『風と共に去りぬ』などから原文を取り上げ、視点や人称代名詞の工夫、言葉遊びの極意を例に、「翻訳読書」の過程でいかに多様な訳が生まれるかをつづる。翻訳とは、徹底的に原作と向き合って「読む」営みだと教えられる。
★鴻巣友季子著 ちくまプリマー新書・886円

『戦後と災後の間』

 副題は「溶融するメディアと社会」。2013年春から5年間の社会時評をまとめた。東京五輪や核と北朝鮮などを取り上げながら、歴史が反復する様々なパターンを追う。経済が拡張から収縮に反転するとき中心部で他者への許容度が低くなる現象は、1920~30年代にも起きた。「平成」は失敗が連続した時代だと指摘。その終わりを前に必要なのは、この時代を過去にくくるのではなく、失敗を問い続ける作業のはずである、という。
★吉見俊哉著 集英社新書・886円

『海賊の日本史』 

 日本の海賊はカリブ海のパイレーツとはだいぶ異なる。瀬戸内海では、縄張りとする海域を通りかかる船に航行の安全のため同乗したり、通行料をとったりしていた。時の権力と結びつくことも。戦国時代には各地の大名と組んで広域で活躍したりもした。時代や地域により異なる様相を呈した海の集団の実像をたどる。
山内譲著 講談社現代新書・907円