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46年「ドカベン」の野球観 水島新司作品の魅力

「ドカベン ドリームトーナメント編」最終回が掲載された週刊少年チャンピオン31号©水島新司/秋田書店

 6月28日発売の秋田書店『週刊少年チャンピオン』で、野球マンガの第一人者・水島新司の「ドカベン」が、高校野球からプロ野球までのシリーズ通算46年にわたる長期連載に終止符を打った。掲載誌は数日で完売、入手できなかったファンも多かっただろう。まさに野球マンガの金字塔であるこの「ドカベン」を軸に、今回は水島作品の特徴を考察したい。
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 戦後のマンガ界において、野球マンガは連綿と描き継がれてきた花形ジャンルだ。有名な原作・梶原一騎、作画・川崎のぼる「巨人の星」が最終回を迎えたのは1971年のこと。70年の「男どアホウ甲子園」でヒットをとばしていた水島は、72年に「ドカベン」の連載を開始する。巨人の長嶋・王選手はもちろん、甲子園を目指す高校球児たちの活躍もあって野球が国民的人気を博していた当時、水島作品は少なくとも三つの点で、従来の野球マンガと比べて新しい魅力を持っていた。

新たな見せ方 現実世界にも影響

 第1に、野球への深い造詣(ぞうけい)に支えられた説得力である。主人公の捕手・山田太郎のミットの構えや配球の仕方、注文通りそこに投球する投手・里中智(さとる)のコントロールや多彩な球種など、細部の理論や技巧へのこだわりは、野球ファンを虜(とりこ)にすると同時に、読者の野球を見る目も育てた。試合だけでなく、練習での選手たちの素振りや走塁のフォームにも躍動感や様式美がある。実際に「ドカベン」から影響を受けたと回顧する球児やプロ野球選手が多いのもうなずけよう。
 第2に、それまでの野球マンガには主人公とライバルのような特定の人物に焦点をあてた作品が多かったのに対し、「ドカベン」では、選手それぞれの個性が光っていた点だ。学帽に葉っぱのサード・岩鬼(いわき)正美、秘打と美技のセカンド・殿馬一人(とのまかずと)といった準主役はもちろん、その家族や友人らにもドラマがあった。「少年チャンピオン」創刊40周年の記念本では、山田太郎の両親が他界する前のエピソードが明かされ、愛情深い家族の物語に多くの読者が感動した。水島は60年代の貸本マンガの時代から人情話を得意としており、随所にその手腕が発揮されている。
 第3に、高校野球とプロ野球の違い、つまりトーナメントとリーグ戦のだいご味を生かした舞台設定である。成長型と循環型の物語構成の違いとも言えるが、特筆すべきはその両方を水島が長年、同時に連載していた点だ。プロ野球を描いた作品は小学館「ビッグコミックオリジナル」で73年から2014年まで続いた「あぶさん」だが、ホークス一筋の主人公・景浦安武(かげうらやすたけ)が作中で引退した際は福岡ヤフードームで引退式が実施されるなど、現実世界に与えた影響力は大きい。「ドカベン」も1995年にプロ野球編に突入、高校時代とは違った選手たちの活躍や試合運びを展開した。
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 こうした魅力を備えた「ドカベン」のクライマックスでは、プロ野球ながらリーグ戦ではなく「ドリームトーナメント編」と銘打ち、高校時代のチームメートやライバルたちが、それぞれの思いを胸に甲子園のグラウンドに集結した。それは文字通り往年のファンが待望した「夢の対決」であり、水島にしかできない最高の舞台演出である。その最後の試合を収録した単行本まで含めると、シリーズは全205巻で完結を迎える。(吉村和真・京都精華大学マンガ学部教授)=朝日新聞2018年7月27日掲載