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地方自治 知事に潜む「独善性」のわな

告示日の14日、都知事選候補者の訴えに耳を傾ける有権者ら

 国と地方、都市と地方の関係の再構築も含め日本の姿、持続的発展に重要なカギを握るのが東京都である。その東京都は、政治とカネの問題で知事2代が辞任する事態にある。31日に投票日を迎える東京都知事選挙に向け、改めて都知事とはどんな存在かを知る必要がある。
 総理大臣をも凌(しの)ぐといわれる都知事の強い権力と、それを背景とした巨大組織都庁の全容を伝えるのが佐々木信夫『都知事』である。石原慎太郎元都知事時代の内容ではあるものの、その時代に限定することなく、東京の政治、政策や組織を普遍的に語る内容であり、今後の都政を改めて考えさせてくれる。総理以上に実質的な権限・財源を持ち、かつ、4年間にわたり基本的にその地位が担保される都知事であればこそ、政治とカネの関係だけでなく、全てに潜む「独善性」や「思い込み」の罠(わな)からの、絶え間ない自己浄化の力が常に求められることになる。
 加えて、東京の抱える深刻な問題を語るのが、松谷明彦『東京劣化』(PHP新書・842円)である。超高齢社会が深刻化し、社会の様々なミスマッチが激しくなる中での東京と地方の関係を考える。待機児童解消や五輪・パラリンピックの着実な実施などは、もちろん重要である。しかし、本質的問題として、日本の中で東京都をいかに位置づけ、都民生活を創生するかの議論は、総理を凌ぐ側面を持つ権力を委ねる都知事の選挙では、重要かつ不可欠となる。

憲法から考える

 憲法という視点から地方自治を捉える重要性も高まっている。今月10日の参議院選挙では、自民・公明の与党を中心に改憲派が勝利し、国会での憲法改正議論に、今後、拍車が掛かる。9条の戦争放棄ばかりでなく、国の姿、統治に関わる重要な争点として、92条からはじまる地方自治があげられる。1990年代以降、道州制も含め地方分権の議論が続いているが、今日に至っても、その取り組みが国の姿の抜本的見直しに至らない。原因として地方自治に関する憲法議論の希薄化がある。
 「地方自治とは何か」という身近な問題を、憲法を考える機会としたい。憲法と地方自治法はともに「地方自治の本旨」の語句を掲げているにもかかわらず、その意味を明確にしていないのだ。
 地方自治が軽視される理由も含め、地方自治の重要性を国民に語りかけるのが、杉原泰雄『日本国憲法の地方自治』である。地方自治は国から与えられる権利に過ぎないのか、それとも天賦人権同様の地域・住民自身が本源的に持つ権利なのか、日本の戦前から続く中央集権体質を振り返りながら、民主主義における地方自治の重要性を考える。安倍政権が強調する地方創生も、国の用意するメニューから選択する「限定された自由」ではなく、地方が政策を自ら生み出し展開する「積極的自由」を柱とする地方自治の確立なしでは実効性が限られる。

「参加」が不可欠

 国、地方を問わず、今、求められる有権者の政治への姿勢は何か。吉田徹『感情の政治学』は示唆する。マニフェスト選挙は、国政、知事選を問わず広く展開されている。マニフェストのメニューを有権者が主体的に選べば、政策が上手(うま)く展開できるほど、政治は単純ではない。今の日本の問題点は、自分の利益を考え合理的に選択し行動する、すなわち、公的(パブリック)な活動から距離をおくことが得な構造を生み出している点にあるとする。
 合理的に判断する賢い有権者ではなく、パブリックなものに参加する感情を持つ有権者が今の政治には不可欠である。憲法改正や地方自治を合理的に距離をおいて評論するのではなく、自らパブリックに行動する姿勢が政治を進化させる。=朝日新聞2016年7月24日掲載