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PR/中央公論新社

花咲舞が増えれば社会が活気づく 今こそ女性に読んでもらいたい

「初めて『花咲舞が黙ってない』を読んだとき、まず思ったのは、花咲舞さんみたいな女性が職場にいてくれたらいいのに、ということでした」

 そう語るのは、三省堂書店有楽町店の主任、小暮勇貴(こぐれゆうき)さん。池井戸作品は出版されるとすぐ購入して読んできたが、花咲舞に関しては、本はもちろんドラマのDVDボックスを購入するほどのファンだという。

 大手銀行で、本店から支店に指導に行く「臨店」の調査役をつとめている花咲舞。まだ入行5年目だが、正義感が強く、間違っていることは間違っていると上司にも臆せず発言する。

「たとえば融資先に何か問題があった場合、銀行の上層部は穏便にすませようとしますが、花咲舞は信念を曲げません。銀行のイメージだけではなく、自分たちを信頼しているお客様に迷惑がかかると、上司に対しても遠慮なく言う。自分も一社会人として、憧れる存在ですね。もちろん現実社会では、花咲舞みたいに行動するのは、なかなか難しい面もあるかもしれませんが」

 こういう後輩がいたら仕事へのモチベーションを見直すきっかけになるし、同期にいたら、「同期がこれだけがんばっているのなら自分も」と思える。上司だったら、尊敬してついていくことができる、と小暮さん。

「私にとっては、理想的な社会人の姿だと思います」

 

 これは他の池井戸作品にも共通する点だが、『花咲舞が黙ってない』でも、企業や銀行のダークな面が鋭く描かれている。

「地方銀行に就職した大学時代の友人に聞くと、こういうことはありえる、と言います。私も書店に勤める前に大手企業で働いていた時期もあり、読みながら、思わずニヤリとした箇所もありました」

 実際に社会で働くなかで闇の部分を垣間見たとき、どう行動したらいいか。池井戸作品には、社会人として生きていく上での問題提起がたくさん詰まっている。加えて『花咲舞が黙ってない』の場合、女性が主人公である点も魅力のひとつだ。

「小説の舞台は二十世紀末ですが、これからは女性がもっともっと活躍していってほしいという、時代をさきがける感覚も描かれているように感じます」

 だからこそ女性にも、そして特にこれから社会に出る学生には、ぜひ読んでほしい本だという。

「そうすれば、未来の〝花咲舞さん〟が大勢生まれるのではないかと思うからです。一人ひとりがハッキリ意見をいい、どうすれば会社全体がよくなるかを考えていけば、会社も活性化される。そしていずれまわりまわって、社会全体がよくなるのではないでしょうか」

 銀行が舞台の作品だけに、一般の人には馴染みがない用語や銀行の仕組みなども出てくる。

「でも、これも池井戸先生のすごいところですが、要所要所にわかりやすく説明を入れてくださる。だからすっと物語に入っていくことができ、読んでいるうちにあたかも自分が登場人物のひとりになっているようにさえ感じます。それだけ引き込む力が大きいところがすばらしい」

 正義を曲げずに突っ走る花咲舞だが、ときにふっと気弱になって、落ちこみそうになることもある。そんな姿にも、人間としてリアリティが感じられると小暮さん。なかでも好きなのは、組んで調査をやっている上司の相馬と和食を食べながら語り合う次のシーンだという。

「歯車にも歯車のプライドってものがあるんですよ。少しでも銀行を良くしようとして報告書をまとめたのに、受け取りもせず取り下げろだなんて。どんな理由があるにせよ、そんなの無茶苦茶ですよ。このままでいいんですか」 振り向いた舞の視線にふいに力が籠(こ)もり、相馬はぐっと顎を引いた。 「いいとは思ってないさ。だけど、どうしようもないだろうよ」 (中略) 「やりようなんかいくらでもある。なのに、やりようがないと自分に言い聞かせているだけなんじゃないですか」

「たぶん彼女は困難な状況のなか、ややもすれば諦めそうになる自分に、必死で言い聞かせていたのでしょう。そこに思わず感情移入してしまいました。私たち書店員は、作家の先生方や出版社さんが作ってくださった作品を、きちんとお客様にお届けする〝かけはし〟にならなくてはいけない。はじめからなにかを諦めていたら、お客様には喜んでいただけません。そう考えてるので、この台詞がぐっと心に響いたのでしょう」

 

 書籍への熱い思いと、本を生みだす人々へのリスペクト、そして書店員としての使命感。それは、幼い頃から本が好きだった小暮さんの強い思いでもある。

「大学時代、4年間、書店でアルバイトしました。いったん就職したものの、本当に自分がやりたいことはなにかと考えたとき、書籍にかかわり、直接お客様と接する仕事をしたいなと思ったのです」

 学生時代、進路に悩んで出口を見失いかけたときにも、本にずいぶん助けられた。

「だから今度は自分が、多くのお客様に本といい出合いをしていただけるよう、お手伝いしたいのです。書店とはどうあるべきか、書店員はどうあるべきか、100%正解という答えはありません。大変な面もありますが、だからこそやりがいもある。花咲舞をお手本にして、皆さんに喜んでいただける書店員になれるよう、これからもがんばるつもりです!