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新書ピックアップ(朝日新聞2018年8月4日掲載)

『よみがえる戦時体制』

 特高警察など戦前の治安体制を研究する著者は、特定秘密保護法、安保法制、そして共謀罪の成立によって、長い「戦後」から新たな「戦前」への転換が急速に図られてきたと指摘する。第2次世界大戦に至る戦時体制の確立過程とその帰結を追い、そして戦後の治安体制の構築を検証することで、現代の状況を批判的に見つめ直す。
★ 荻野富士夫著 集英社新書・950円

『男女平等はどこまで進んだか』 

 女性差別撤廃条約が1979年国連で採択され、日本では85年に発効して以来、30年以上が過ぎた。日本は、いまだ男女格差を示す「ジェンダーギャップ指数」が2017年で世界144カ国中114位という状況にある。家族・労働・性など条約に関わるテーマ解説や、条約の対訳などの資料を盛り込み、ジェンダー平等の実現を説く。
★山下泰子・矢澤澄子監修、国際女性の地位協会編 岩波ジュニア新書・972円

『日本語を翻訳するということ』

 副題は、「失われるもの、残るもの」。母語としての日本語を「ウチ語」とし、「ソト語」である外国語への移動を翻訳として捉え、音読みと訓読みの違いや「雨ニモマケズ」のカタカナ表記の効果などを通じて、翻訳という行為について考察。比喩の扱いに表れる文化の相違を実例で示し、漱石と村上春樹の言葉の使い方について比較する。日本語の特質も浮かび上がる。
★牧野成一著 中公新書・842円

『持続可能な医療』 

右肩上がりの成長は望めないのに、将来世代に膨大なツケを回し続ける日本人。医療は、科学や社会システム、死生観など、様々な領域が交差する。著者は病気を個人で完結するものではなく、個人を取り巻く環境との関わりで考え、世代間のつながりやコミュニティーの再構築、死を含んだ生全体の充足などを組み込んだ新たな公共性シフトを構想する。
★広井良典著 ちくま新書・886円