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言葉と戯れ、言葉に遊ばせる

神様の住所 著者:九螺 ささら 出版社:朝日出版社 ジャンル:詩歌

価格:1836円
ISBN: 9784255010519
発売⽇: 2018/06/13
サイズ: 19cm/271p

さびしくて一個は二個になりましたそして細胞は孤独を失う テーマに応じた短歌を冒頭にして、その短歌についての解説とも読めるような散文、そして最後にまた短歌、という構成で84…

評者:野矢茂樹 / 朝⽇新聞掲載:2018年08月11日

神様の住所 [著]九螺ささら

 あのね、九螺さんはこれが初めての本で、まだ無名のこれからの歌人なのだけれど、これからが楽しみとかじゃなくて、そのときそのときのよさがあると思うのだよね。「耳たぶのやわらかさになるまでこねてキツネ色になるまで焼いて食べて」って、なんかうふふな気分になる。あれ、これ五七五七七じゃないのか。でも、こねこねしてるリズムと「焼いて食べて」ってリズムが気持ちいい。
 各章は、まず短歌を掲げて、それからエッセイが二ページほど続いて、また短歌で締められる。私は短歌の世界は詳しくないから、この短歌たちがどう新しいのかは分からない。たまに読むと技巧的な短歌やわざと無技巧に見せる短歌もあって、感心はしても、向こうにいるって感じがする。だけどこの本は、隣に知らない女の人がちょこんと腰掛けて、短歌と独り言を口ずさむ。そんな感じ。あ、そこのあなた、そんな人が隣にきたらやばいかもって腰を浮かしそうになりました? よし、ひとつエピソードを紹介しよう。
 九螺さんは小学五年生のときに「ふるとりくん」という漫画を描いた。「ふるとり」というのは部首の名前で、「隹」のことだ。ふるとりくんは木に登って「集」になったり、少なくなって「雀」になったり、そして最後は「離」になって地球から去ってゆくという壮大なドラマ。これ、面白くないですか? こんな少女がそのまま大人になったんじゃないかな。
  鳥一羽わたし一人のこの部屋に「とりとひとりと」言霊が巡る
 言葉と戯れて、言葉に遊ばせながら、ふとした拍子にはるか遠くにそのまなざしが吸い寄せられる。「〈天地無用〉のシールが貼られたところから天と地がじわじわ染み出ている」――その短歌は、さあ解釈してごらんと挑んでくることがない。いいんだ、まんまで。だって天と地が、ほら、じわじわと染み出てるじゃないですか。
    ◇
 くら・ささら 1968年生まれ。独学で短歌を始め、2010年短歌研究新人賞候補に。新聞歌壇の入選多数。