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ナウなヤングは「駄カメラ」で撮るべし! 石井正則さんが語るフィルムカメラ愛

文:北林のぶお、写真:有村蓮

 駄菓子のような価格で買えてしまうのが「駄カメラ」。こういうフィルムカメラが、かわいくてしようがない。中古カメラ屋さんだと、全部300円とか書いた段ボール箱に入っているわけですよ。僕らは「救出」という言葉を使うんですけど、その子たちを救いだしてあげちゃうんです。

 誰にも気付かれずにいるその子が、「まさか、あの子では」と、光り輝いて見える。まるで、僕だけを見て「クーン、キューン」と鳴いているみたいな。そりゃもう、救いたくなりますよね。

 最近では一周回ってしまい、救出するのを我慢して、店員さんに「コレはこんな機能の珍しいカメラですよ」と教えるんです。店員さんが説明できれば、他のお客さんがこの子をもらってくれるかもしれない。そんな不思議なやりとりが行われるぐらい、「駄カメラ」は魅力ある世界なんです。しかも、あまりお金をかけずにできる。

――けっして駄目なカメラという意味ではなく、駄菓子で遊ぶようにカメラを純粋に楽しみたい。そんな思いから石井さんがふと口にした「駄カメラ」という言葉は、カメラ仲間とグループ写真展を開くほどの盛り上がりに。その定義は「3000円以下で買った中古フィルムカメラ」とのこと。

 「遠足のおやつは300円まで」と同じ感覚です。3000円だとカメラの選択の幅が生まれて、ちょうどいいラインかなということで。「じゃあ、バナナはおやつに入るんですか」みたいに、消費税や送料とかの質問をされるんですけど、割と自由にやっていいということになっていますね。

 今回の『駄カメラ大百科』には、普通は駄カメラ価格で買えないカメラがたまたま手に入った場合もあれば、1円で手に入れちゃったカメラも載っています。

――机に並べてもらったのは、『駄カメラ大百科』にも登場するカメラたち。表紙を飾った1985年発売のフジ「AUTO-8 QD TATEYOKO」と、その阪神タイガース優勝記念モデル、ミニ三脚が付いたコニカ「KANPAI」、そしてコニカ「現場監督 ECO」。

 どれも“映え”する子たちですね。名前は変なのばっかりですけど(笑)。「TATEYOKO」は、縦写真でも横写真でも右下に日付が入る機能があって、一番よく使っています。

 「現場監督」シリーズは、工事現場の監督さんが使うのを前提としたカメラで、とにかく頑丈だし、ルックス的にもフィルムカメラ版「G-SHOCK」ですよね。そのまま商品名にしちゃったというのが衝撃的です。他のメーカーが似たようなカメラ「安全第一」を出してあまり売れなかったという、切ないエピソードもあります。

――インタビュー中に突然、「KANPAI」の前面にある緑や赤のランプが、石井さんの声に反応してチカチカと光り出した。

 「カンパーイ」のような大きい音量になると、シャッターを切ってくれるんです。先ほどの大事な本番(テレビの生放送)には動かなかったのに、今動きだしましたよ。うーん、残念…

 初心者の方は、高い価格でちゃんと動くカメラを買うというのもいい。けど今は、インターネットに手入れの仕方などの情報もありますので。あまり良い状態じゃないかもというカメラを安く手に入れて、それを手入れするという楽しみ方もあります。自分でキレイにしたカメラがちゃんと動くと、すごく愛着が湧くじゃないですか。

 撮り終わったフィルムを郵送すると、現像したデータがクラウドに送られてくれるサービスもあります。それをインスタとかにアップできちゃうわけですから、若い人も十分楽しめると思うんです。

――今はなきケイブンシャ(勁文社)の大百科シリーズや小学館のコロタン文庫を思い起こさせる、表紙の装丁も話題に。320ページの文庫サイズで、書店のどの棚に置くべきか悩む、出版社にとっては営業泣かせの一冊だが……。

 打ち合わせの時に「どうしてもこの形がいいなぁ」と、ずっとブツブツ言って、なんとかこのサイズにしてもらいました。僕は昔の百科シリーズから知らないジャンルのことも教えてもらったから、カメラ好きな人はもちろん、カメラをやったことのない人にも読んでもらえるように意識しました。子どもの頃のように、楽しみながら隅々まで読んでもらえたらうれしいです。 

 こういうカメラを懐かしいと感じる世代には、昭和レトロのネタや単語をボンボンぶち込んだので、ナウでヤングなアベックにぜひ読んでもらいたいところですね。コラムのコーナーも、キャラクター3人のトリオ漫才のイメージで、楽しみながら書いていました。

――撮影中にカメラマンの有村氏がカメラを替えて、駄カメラ価格で買った京セラ「SAMURAI」をビデオカメラのように構える。石井さんの目が輝き、「現場監督」を持つポーズもノリノリに。サムライと現場監督が対峙する2018年8月7日。

 「SAMURAI」に撮られるという経験は初めてなんですけど、イイっすね(笑)。持つカメラによって、撮られる側の感覚はけっこう変わりますし、出来上がる写真も変わります。今は逆に、フィルムカメラで撮るというだけで、被写体のテンションも違ってくると思います。

 特に若い人たちには、友達との日々とかを、ぜひフィルムカメラで撮ってもらいたいですね。僕が今45歳の時の写真を50歳になって見ても、そんなに感動はないかもしれない。でも、18歳ぐらいの子がフィルムで撮った写真を23歳になって見返すと、感慨深いと思うんです。フィルムだと、スマホの写真のように失敗した写真を消すことは少ない。その失敗した写真が後になって良く見えたりするのも、フィルムカメラの良さなので。

――ここ15年、かばんにフィルムカメラを入れずに外出したことはないという石井さん。デジカメを持たず、フィルムに「日付」を物理的に焼き付けることを推奨する理由は?

 フィルムは、シャッターが開いて光が入って、それをフィルムに焼き付けて持って帰るような、旅先の光をそのまま持って帰るような感覚が、僕の中にはあるんですよ。デジカメは、スキャンしているイメージなんですよね。

 手元にフィルムがあって、自分がその場所にいた時間の空気がそこに閉じこもっているという感覚がすごく好きなんです。2011年3月10日に散歩して風景を撮ったフィルムがあるんですけど、その写真を見ると、3・11前の日本はここにあるっていう感覚があって。それ以降、たとえ安いカメラで撮っても、フィルムで残っていることは尊いことだという思いが強くなりました。

――冗談から始まった「駄カメラ」の啓蒙。そこには、消えゆくカルチャーを守ろうという“ウラ情熱”も存在している。

 フィルム自体はナマモノだから、使う人がいなければ作られなくなりますし、多ければ単価も下がります。カジュアルにフィルムを使う人がまた増えて、細々とでもいいので受け継がれてほしいなと思っています。

 もちろんこのカメラたちも、いつかはシャッターを切れなくなる日がやって来ます。でも、限られた命だからこそ、その瞬間まで楽しく使ってあげることができたら、この子たちも幸せだと思えるんじゃないかなって。