1. HOME
  2. 書評
  3. 生の現場に立とうとする哲学者の思考

生の現場に立とうとする哲学者の思考

はざまの哲学 著者:野家啓一 出版社:青土社 ジャンル:哲学・思想・宗教・心理

価格:2376円
ISBN: 9784791770748
発売⽇: 2018/05/25
サイズ: 19cm/335,7p

未知と既知、科学と哲学、事実と虚構、記憶と忘却…。科学哲学、分析哲学、現象学、物語り論の境界線上に、しなやかな文体で刻まれた、哲学的探究の軌跡。1994〜2017年に発表…

評者:野矢茂樹 / 朝⽇新聞掲載:2018年08月18日

はざまの哲学 [著]野家啓一

 野家と野矢を間違える人がいる。牛と蠅くらい違うのに。これほど哲学を大所高所から論じられる人は、我が国では野家さんを措いてない。大通りを闊歩する大御所の風格である。私はといえば、路地をうろつくチンピラの風体である。
 本書で野家さんは、野家哲学とも言うべき物語り論を開陳するのではなく、現代哲学を俯瞰してみせてくれる。現象学だとか分析哲学だとかいった偏頗な党派意識なんかかけらもなく、話題は多岐にわたる。しかしそこに一貫して見られるのは、私たちが生き、他者とともに語り合い、実践を営む、この現場に立とうとする姿勢である。だから私は、本書を共感をもって読むことができた(さらに白状すれば、とても勉強になった)。
 野家さんは仙台に住んでいる。生の現場に立とうとする哲学者が、東日本大震災の傷跡を前にしばし言葉を失い、そしてまた語り始める。本書は、そこで閉じられている。